2019年05月31日 1577号

【未来への責任(274)韓国併合は当初から無効だ】

 日本政府は日本製鉄(4月1日に新日鐵住金から戦前と同じ社名に変更!)と三菱重工に出された昨年の元徴用工被害者の韓国大法院判決について、1965年の日韓基本条約・請求権協定により「完全かつ最終的に解決された」問題を根本から覆す「国際法上ありえない」「日韓の法的基盤を根底からくつがえす」判決であるとの主張を繰り返し表明し、日本企業に「実害」が及ばないように韓国政府が何らかの措置をとることをしつこく要求している。

 そもそも65年に締結された「日韓条約」は基本条約と4つの協定及び交換公文からなり、基本条約第2条は1910年の韓国併合以前に締結されたすべての条約及び協定は「もはや」無効であると規定した。この「もはや」という修飾語を加えることによって、日本政府は“条約締結により初めて、過去の植民地支配の過程で結ばれた条約が無効となる”と、韓国政府は“植民地化のために結ばれた条約はそもそも当初から無効である”と、お互いがそれぞれ都合よく解釈することとなった。

 しかし、当時日本が朝鮮植民地化のために結んだ一連の条約が韓国政府の主張するように国際法の観点からも「無効」ということになれば植民地支配自体が不法となり、当然侵略戦争遂行に向けて戦時下の労働力不足を補うため行われた強制連行・強制動員自体が不法な行為となる。

 この問題について長年研究してきた元龍谷大学法科大学院教授の戸塚悦朗さんが5月7日龍谷大学で「1905年『保護条約』の不存在説と日韓の正常化に向けての提言」と題する講演を行った。

 講演は、韓国併合に先立つ05年に当時の大韓帝国から外交権を剥奪した「韓国保護条約」(第二次日韓協約=乙巳(ウルサ)条約)について、(1)外交権を他国に譲渡する重要な条約であるにもかかわらず表題もなく草案のまま締結に至らなかった疑いがある、(2)武力を背景に強要した条約である、(3)当時の国際法においても明文がない限り条約には批准が必要であるというのが「通説」だが皇帝の批准がない、など様々な観点から、当初より無効であったことを論証したものだ。そして、1963年の国連国際法委員会(ILC)の報告書にも、国家を代表する個人に対して加えられた強制又は強迫の結果締結された条約は国際慣習法上も無効である具体例としてこの条約が取り上げられていることが紹介された。つまり、当時の国際法的な観点からも「韓国保護条約」自体が「無効」であるとの韓国政府の主張が正しいことを裏付ける重要な指摘であった。

 脱亜入欧を掲げ帝国主義国家への仲間入りを目指した日本は「国際法」を遵守する日本の姿を西欧各国に見せるために日露戦争に国際法学者らを軍事顧問として派遣した。このことはロシア軍捕虜の処遇についてハーグ条約を遵守した立派な日本などと取り上げられたりするが、その一方で隣国朝鮮に対しては、国際法を無視し「無法」の限りを尽くしていたのである。まさに植民地主義ここに極まれり、である。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS