2019年09月20日 1592号

【年金財政検証を斬る/30年後には4割減と試算/75歳まで保険料/受給はそのあと!?】

 厚生労働省は8月27日、5年毎に見直している年金財政の検証結果を公表した。30年後、今より4割減額となる衝撃的内容だ。「2000万円不足」どころではない。憲法25条により、政府は老後などの生活を保障する義務を負っている。年金制度はその柱だ。誰でも安心して暮らせる年金をどう保障させるのか。今号では財政検証から政府が狙う年金改悪を明らかにする。

所得代替率50%は虚構

 「経済成長と労働参加が進むケースでは、所得代替率50%以上を確保できることが確認された」。根本匠厚労相は年金財政検証結果についてこうまとめた。この言葉には大きなごまかしがある。

 所得代替率とは「現役男子の平均手取り収入に対する年金給付額の割合」である。19年度では平均手取り額35万7千円に対し、年金は夫婦2人のモデル世帯で、夫婦の基礎年金13万円に夫の厚生年金9万円の計22万円。所得代替率は61・7%となっている。

 なぜ「50%以上」なのか。国民年金法(04年改正)付則に「50%以上になる給付水準を将来にわたり確保する」旨の規定がある。所得代替率を順次50%にまで引き下げていくことは「既定方針」。だが、50%を割り込むことはできない。そのため財政検証は現実的でない条件を想定し、強引につじつまを合わせたのだ。

 厚労省は経済成長と女性や高齢者の労働参加の割合がともに「進む」から「一定程度進む」「進まない」など6つのケースで検証を行った。年金額は、受給開始時は賃金水準で、受給中は物価水準で決定され、毎年度改定される。「進む」ケースは実質賃金上昇率を28年度1・3%、29年度以降は1・1〜1・6%、「進まない」ケースでさえ28年度0・7%に設定。まったく現実離れした数値だ。

 これまでの実質賃金指数の推移を見てみよう。02年を1として、07年0・966、14年0・936、17年0・935と連続して低下、一度も02年を超えていない。「官製春闘」による大企業中心の賃上げがあったにもかかわらず、全体ではマイナスが続いている。10年先にプラスとなる保証などどこにもない。


ありえない条件で検証

 物価上昇率でも甘すぎる前提に立つ。「進む」ケースで24年度以降に2・0%上昇、「一定程度進む」と「進まない」でも23年度以降0・8%上昇とする。物価上昇率は過去30年の平均で0・5%に過ぎず、日銀の異次元金融緩和でさえ2%を達成できていない現実を無視している。

 実質賃金上昇率と物価上昇率の設定を見るだけでも厚労省がいかに非現実的な想定をしているのか明らかである。

 もとよりモデル世帯そのものにも問題がある。非正規が広がり、共稼ぎ世帯が増えている現状ではモデル世帯―平均収入で40年働いた会社員と専業主婦の2人が65歳から受け取る場合―はむしろ少数。なぜ、これをモデルにするのか。40年間厚生年金保険料を払った世帯の受給額は比較的高額であり、これでやっと所得代替率50%を維持できるからに違いない。

 今後の経済状況に照らすと6つの中で最悪の「進まない」ケースが最も現実的である。このケースでは所得代替率は36〜38%にまで下がってしまう。現在の水準から4割削減。老後2千万円問題以上の衝撃度だ。参院選前の公表をさけたわけだ。

狙いは「死ぬまで働け」

 問題はそれだけではない。年金制度を見直す2つのオプションで試算が行われている。

 オプションAは、厚生年金加入条件を拡大した場合を想定。賃金要件と企業規模要件を廃止し、月5・8万円以上のパートも厚生年金の対象とする。低賃金加入者が1050万人増えるので、所得代替率低下を防ぐ「効果」がでることになる。

 厚生年金加入要件の緩和は以前から労働者が求めてきたものである。保険料が労使折半になるため労働者の負担を減らせる。現行では企業規模501人以上、いわゆる大企業に限られていた。企業規模の要件を廃止すれば中小零細企業にまで拡大される。しかし、厳しい経営状態が少なくない中小零細企業への対策を抜きに、実行してはならないものだ。

 オプションBは保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択を広げる場合だ。国民年金の納付期間を40年間から45年間に延長し、厚生年金の保険料納付年齢の上限を70歳から75歳に引き上げた場合を想定。受給開始年齢を70歳からさらに75歳に繰り下げる場合も試算している。オプションBが意味するものは、年金受給は75歳から、「死ぬまで働け」と宣言したに等しい。

 財政検証では、厚生年金とともに国民年金をさらに削減することも示している。基礎年金である国民年金を維持・拡充することが生存権保障の上で、重要課題となる。次回は、誰でも安心して暮らせる年金制度、最低保障年金について提案する。
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