2019年09月20日 1592号

【週刊ポスト嫌韓の背景/ネトウヨ化する高齢男性/喪失感に付け込むヘイトビジネス】

 9月2日発売の『週刊ポスト』が組んだ特集「韓国なんて要らない」に、抗議の声が広がっている。かつて総合週刊誌売り上げトップを誇った同誌がなぜ、韓国叩きが売りのヘイト雑誌と化してしまったのか。その背景には、中高年ネトウヨの増殖という問題がある。

差別煽動に抗議殺到

 「『嫌韓』でなく『断韓』だ/厄介な隣人にサヨウナラ/韓国なんて要らない」と題した週刊ポスト(9月13日号)の記事。その内容をかいつまんで言えば、“国交断絶しても日本は平気。困るのは韓国だけ”というもの。ネトウヨの書き込みと大差ない低レベルの一文だ。

 一方、「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」という記事はきわめて悪質だ。韓国人が「反日デモや抗議集会で怒号を上げ、日の丸を燃やす」ほど怒りを露わにするのは、民族的病理のせいだというのである。「韓国成人の半分以上が憤怒(ふんぬ)調節に困難を感じており、10人に1人は治療が必要」(大韓神経精神医学会調査)。こうした「抑えられない怒りの矛先が日本に向けられている可能性がある」というわけだ。

 話をすり替えるなと言いたい。韓国世論は植民地支配の反省なき安倍政権の姿勢や対韓挑発政策に怒っているのである。日本が原因を作っていることに触れず、「お前ら病気だろ」とは何たる言い草か。民族差別を煽るヘイトスピーチ以外の何ものでもない。

 この特集に対しては、さすがにポストゆかりの作家やジャーナリストが抗議の声を上げた。発行元の小学館に「縁切り宣言」をした作家もいる。あわてた編集部は「誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました」とする「お詫び」を表明した。

 ただし、記事内容の訂正や撤回はない。なぜか。ポスト編集部や小学館の経営陣にとって、嫌韓ヘイト雑誌化は彼らなりの生き残り戦略だからである。同じことをやらかすことは目に見えている。

高齢層ほど嫌韓

 週刊ポストの発行部数は現在約34万部。全盛期の3分の1以下である。「若者の活字離れ」が叫ばれる中、近年は高齢男性向けに特化した誌面作りを行ってきた。要するに、健康特集とエロ記事の連発だ。両者のハイブリッドが毎号載っている「死ぬまで死ぬほどSEX」特集なのだろう。

 韓国叩きも高齢男性向けコンテンツのひとつ。実は、ポストは6号連続で韓国批判の特集を組んでいる。編集部や経営陣が「嫌韓は売れる」と判断している証拠だ。実際、発行部数はライバルの週刊現代を抜き返した。

 では、高齢男性は本当に韓国嫌いの傾向があるのだろうか。内閣府が発表した「外国に関する世論調査」(2018年10月調査)をみてみよう。韓国に「親しみを感じる」と答えた人の割合は39・4%、「親しみを感じない」は58%であった。男女別では「感じる」が男性36・8%、女性41・9%となっている。

 世代別だと大きな差が出る。18〜29歳では57・4%が「親しみを感じる」と答えているのに、60代は31・3%、70歳以上は28・1%しかいない(「親しみを感じない」は18〜29歳が41・4%、60代が67%、70歳以上が66・8%)。

 このように、韓国をめぐる世代間ギャップはすさまじいものがある。かつてはそれほどでもなかった。好感度が過去最高(63・1%)だった2009年には20代と70歳以上の差は5ポイントしかなかったのだ。それが年々拡大傾向にある。高齢世代の嫌韓化が世論全体を規定しているとみていい(澤田克己『月刊WEDGE』5/20号)。

あおりビジネス

 「右傾化する高齢者たち」「突然、父がネトウヨに」―そうした企画記事を新聞や雑誌で目にすることが多くなった。実家の父が退職後にネトウヨ化し、家族が困惑しているという内容だ。

 ルポライターの鈴木大介は、まじめな会社員だった自分の父親がヘイト思想にのめり込んでいった体験から、背景には「老いたる者が共通して抱える喪失感」があると分析する。貧しくても努力すれば報われた「古き良きニッポン」。それが失われてしまったことへの憤懣(ふんまん)をヘイトビジネスに利用されたのだ、と(7/25デイリー新潮)。

 「押し付け憲法や中国・韓国、朝日新聞が日本をダメにした」というように、ヘイトビジネスは被害者感情をあおりたてる。そして、激しい言葉で「敵」をやり込めてみせることで、一時のカタルシスを与える。人びとの理性を麻痺させ、依存症にして儲ける麻薬のようなビジネスだ。

 困ったことに、社会的な問題に関心があり情報を求める者ほど、ヘイトビジネスの罠に掛かりやすい。書店に行けば嫌韓本が目立つ場所に並び、ネットで検索すればフェイクニュースばかりヒットする。情報を疑うことに慣れておらず、歴史に詳しくない者は毒にやられてしまいがちだ。

 週刊ポストはたしかにひどい。しかし、各局のワイドショー番組はポスト並みの韓国叩きを競うように連日続けている。民族差別発言が飛び交う番組を暇にまかせて見続けていたら、嫌韓気分に誘導されるのも無理はない。

 「韓国叩きはウケる」「韓国相手なら何を言っても構わない」とする風潮を許してはならない。差別と排外主義は戦争を招き、人を殺す。私たちはヘイト言説を決して見過ごさず、抗議の声を上げ続ける必要がある。   (M)



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