2019年09月27日 1593号

【ICRP勧告案緊急学習会 避難させず被ばくさせる狙い 運動としてのパブリックコメントを 京都・市民測定所】

 京都・市民放射能測定所は9月16日、京都市内で「ICRP(国際放射線防護委員会)勧告案を検証する緊急学習会」を開催、研究者や市民40人が参加した。

 ICRPは、福島第一原発事故を受けて「タスクグループ93」(甲斐(かい)倫明座長)を設置し、「大規模原子力事故」に焦点をあてチェルノブイリ事故後の勧告の改訂作業を進めてきた。それが今回の改訂草案である。

 日本政府は福島原発事故後、放射線防護委員会による2007年勧告が提唱する参考レベルを元に、「年間20_シーベルト」を基準として避難及び帰還政策を進めてきた。この07年勧告は、チェルノブイリの経験を踏まえ原発を進める政府・企業の意に基づき「できるだけ避難者を少なくする」「政府と電力会社の賠償責任を軽くする」ことに狙いがある。

 福島事故の11年3月時点では、07年勧告は日本の法令には取り込まれていない。日本政府は、現行法の公衆の被ばく限度である年1_シーベルトを投げ捨て、法的な根拠もないまま参考レベルにすぎない「年20_シーベルト」を基準に避難、帰還政策を強行している。今回の改訂草案は、事故が繰り返されることを前提に、原子力産業の利益のために住民を避難をさせずに被ばくさせることを全世界に広げる狙いがある。

 講演した山田耕作さん(京都大学名誉教授)は、タスクグループ甲斐座長が作成した資料に基づき、改訂草案を解説。特に「防護策決定の正当化」の項目では「被ばくに影響を与える決定は害よりも益が大きくなければならない。正当化の判断の責任は、社会全体の益を保障すべき行政当局にある」としていることを強く批判し、改訂草案に対する共同意見書を説明した。

 高橋博子さん(名古屋大学大学院法科研究科研究員)は、ICRPの歴史と性格を補足した。「ICRPはNCRP(米国放射線防護委員会)が中心となって組織した。NCRPは広島・長崎の原爆を開発したマンハッタン計画に関わった科学者が中心の組織で、核開発を担ってきた米国原子力委員会の影響を強く受けてきた」と指摘した。

 さらに、藤岡毅さん(大阪経済法科大学21世紀社会総合研究センター客員教授)は、改定草案について「大規模事故においても放射線防護は可能という原子力産業の生き残りをかけた進化≠目指すが、もはや防護ですらない。参考レベルを全面に押し立てて、既存の線量限度(年1_シーベルト)を事実上葬り去るものだ」と厳しく批判した。

帰還政策を許さない

 質疑ではパブリックコメントの意義が討議になり、「市民の運動と位置づけて取り組む」「世界に日本の市民・被害者の声を発信する」「日本政府にはICRP勧告を取り入れるなと求める必要がある」などの点が確認された。

 今後、改訂草案へのパブコメ集中運動を踏まえ、日本政府に対し、法的根拠もない帰還政策を撤回させるとともにICRP勧告を国内に適用させない運動を継続していく必要性が強調された。

 京都・市民放射能測定所は、住民を被ばくさせない取り組みを研究者・市民の協同ですすめていく。

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