2019年10月04日 1594号

【国家安全保障局に「経済班」新設/外交放棄し脅迫一辺倒の安倍極右内閣/軍事と経済を権益争いの武器に】

 安倍晋三首相は今回の内閣改造を機に、さらなる自らの体制強化をはかっている。安倍の支配強化に一役買った内閣情報室トップ北村滋が局長に就任したばかりの国家安全保障局に経済政策の担当部署を新設するという。経済政策も安全保障上の「武器」にしようというのである。「企業が一番活躍できる国」をめざす安倍政権は、経済政策と海外派兵体制が一体であることを隠そうともしない。

「経済」で安全保障?

 安倍政権は安全保障政策に「経済」を駆使しようと、官邸主導の組織づくりに踏み出した。菅義偉(すがよしひで)官房長官は「何も決まっていない」ととぼけているが、「複数の政府関係者が明らかにした」(9/18時事他)と報道されているように、準備は進んでいる。

 自民党の「ルール形成戦略議員連盟」(会長甘利明)が「経済戦争から日本企業を保全することは急務だ」と今年3月に提言をまとめていた。党に言わせて政権が取り込むパターンだ。

 検討されている最有力案が外交・軍事など安全保障政策を決定する国家安全保障会議(NSC)の事務局である国家安全保障局(NSS)に経済担当部署を新設するものだ。

 NSCは、第2次安倍内閣発足時2013年12月に「官邸の司令塔機能を強化する」目的で内閣に設置された。安全保障や軍事・外交政策の重要方針を決める。首相を議長に、官房長官、防衛相、外務相の4大臣会合が月2回程度開催されている。自衛隊派兵を可能とする緊急事態の判断をする緊急事態大臣会合など必要に応じ他の大臣も加わる会合も開催されるが、基本的にこの4大臣で「国防の基本方針」「防衛大綱」など外交、防衛政策の重要方針が決定できるようにした。

 安倍が強行してきた一連の戦争法の制定や大軍拡による戦争国家づくりを後押ししてきた機関である。

 このNSCを実質的に切り盛りしているのが内閣官房に置かれたNSSだ。現在の構成は、英米豪などの地域を担当する第1班、北東アジア・ロシア担当の第2班、中東・アフリカ担当第3班、サイバー政策などを担う戦略企画班、情報を総合する情報班、総括・調整班の6班となっている。ここに経済班を創設しようというのである。

外交交渉より経済圧力

 経済班は何をするのか。韓国への経済制裁決定過程からその役割が推測される。

 安倍政権が妥協の余地を一切見せないのが韓国大法院が18年10月に出した徴用工判決だ。植民地時代に不当な扱いを受けた韓国労働者が日本企業に賠償を求めた裁判。それを認める判決に、安倍は怒り心頭。日本企業の代わりに韓国政府が賠償すべきだとし「国際法違反」と執拗なバッシングに出た。

 この時、安倍は各省庁に報復措置を検討するよう指示していたことが明らかになった(9/4毎日)。「韓国を動かすための『アラーム』(目覚まし)」(外務省幹部)と政府内で隠語で呼ばれるほど「毅然とした対応をとるための具体的措置」を安倍は注文した。

 官邸は、外務省に韓国人のビザ制限を提案させるつもりでいた。だが外務省は渋った。あまりにも無理筋だ。「外務省が『対抗措置』をやらないから、経産省が引き受けた」(経産省幹部8/29読売)。安倍の取り巻きを輩出している経産省の出番だった。逆に安倍の逆鱗に触れた外務省は、一連の韓国への対応について蚊帳の外に置かれたという。

 経産省は「ガツンとやらないと文在寅(ムンジェイン)政権には伝わらない」(経済閣僚)と韓国の主要産業である半導体を対象とした制裁措置をひねり出した。これが「ホワイト国(輸出管理上の優遇対象国)除外」措置の顛末だ。

 この経済措置をとる理由に挙げたのが「安全保障上の問題」だった。NSSで強化される「経済安全保障」とはこういうことなのだ。通常の外交交渉など安倍の眼中にはない。ますます経産省官僚が官邸の手足となって、経済政策を脅迫の手段として使う役割を果たしていく。

警察と経産官僚が主導

 この組織の立ち上げの中心人物が北村滋だ。内閣情報室のトップを8年近く務め、今回の内閣改造でNSS局長に就いた。内閣情報官時代には、公安警察の経歴を生かして安倍の政敵つぶしなどの他、経済に関する情報収集・分析も行ってきたという。北村は第1次安倍政権の時、首相秘書官としてNSC設置に動き回った。外国の諜報機関と通じる外事課上がりの北村は、対外謀略組織CIA(中央情報局)を配下にする米国NSCを思い描いていたに違いない。今まさに、NSSのトップに就き、実質NSCをコントロールできる立場にたった。

 安倍官邸を支える陣容は、警察官僚と経産官僚といってよい。北村は、安倍の外交を経済重視へと誘導した経産省出身の今井尚哉(たかや)と近いと評される。「影の総理」と言われる今井は、今回首相補佐官と秘書官を兼務するという異例の扱いで、安倍の分身を演じる。

 もう一人見過ごせない人物がいる。官邸がNSSに送る国家安全保障担当の首相補佐官に就いた木原稔衆議院議員だ。木原は、自民党文化芸術懇話会会長として百田尚樹に「沖縄の2紙はつぶせ」発言の場を提供した人物だ。

 極右内閣が経済も軍事も使って「安全」を保障するという。内需拡大(賃上げ)を回避し、新たな需要=海外市場をもとめるグローバル資本の衝動力はより強欲になっている。それに見合った、「交渉」ではなく「力づく」の政府機関が安倍の下で強化されていく。安倍の「安全保障」は1にも2にもグローバル資本のためである。

 

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