2019年10月04日 1594号

【シネマ観客席/米軍(アメリカ)が最も恐れた男/カメジロー不屈の生涯/佐古忠彦監督 2019年 日本 128分/基地を拒否する不屈の闘い】

 米軍の占領統治、日本政府の切り捨てと闘い続けた沖縄の政治家・瀬長亀次郎。その生涯を描いたドキュメンタリー映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男/カメジロー不屈の生涯』(佐古忠彦監督)が好評上映中だ。「再び戦場となることを拒否する。基地となることを拒否する」という訴えに込められた沖縄民衆の思いを感じ取ってほしい。

膨大な日記をもとに

 前作『米軍が最も恐れた男/その名は、カメジロー』は2017年に公開され、数々の映画賞を受賞した。激動の時代を生きた沖縄のおじいやおばあは「カメさんに会いに来た」と映画館に足を運び、若者は「こんな政治家がいたのか」と驚嘆した。

 感想の中には「もっと亀次郎を知りたい」「家庭での素顔はどうだったのか」というものもあった。人間・瀬長亀次郎の実像をより鮮明に浮かび上がらせる―。続編の制作にあたり、佐古忠彦監督は亀次郎が残した230冊もの日記を丹念に読み込んでいった。

 米軍による土地接収、相次ぐ事故・犯罪、核ミサイル配備、毒ガス漏れ、そして復帰直前の民衆蜂起(コザ事件)。亀次郎の次女・千尋さんが語るように、日記には沖縄の戦後史が詰まっていた。また、妻や我が子への愛情が優しい言葉で綴られていた。

 亀次郎が残した数々の言葉をベースにした本作は、沖縄の基地問題とは民主主義の問題であることを浮かび上がらせている。亀次郎の日記朗読は俳優の役所広司が担当。政治的立場の違いを超えて民衆に愛された亀次郎の人間性を見事に表現している。

民衆への限りない信頼

 政治家・瀬長亀次郎の歩みを簡単に紹介したい。沖縄県北部の山奥で敗戦を迎えた亀次郎。目の当たりにしたのは、新たな支配者として横暴の限りを尽くす米占領軍の姿だった。「戦争は終わったが、地獄は続いていた」「この連中は県民の味方ではない」

 亀次郎は「地球の裏側から来た泥棒」と闘うために、仲間を集め沖縄人民党を設立。米軍を恐れず、民衆の苦しみを代弁する演説に人びとは熱狂した。一方、占領当局は亀次郎を「最も危険な人物」とみなし、あの手この手で追い落としを図った。

 罪をでっち上げられ、投獄された亀次郎。離島への「流刑」を含む2年間の獄中生活を支えたのは妻フミが送り続けた手紙だった。「5回も読み返し読んだ。あきないものだ。(中略)たんたんたる文章の中にあるだけの愛情を流し込んである」

 1956年4月、出獄。その年の暮れ、亀次郎は那覇市長選挙に立候補し、見事当選を果たす。占領当局は選挙で選ばれた市長の追放工作を展開。銀行に圧力をかけて那覇市の預金を凍結させ、水道供給まで止めた。すると市民は驚きの行動に出た。我らが亀次郎市長を助けようと、納税運動を始めたのだ。

 「大衆の力の偉大なこと。負けるもんか」と亀次郎。不屈の闘いは民衆への限りない信頼の上に成り立っていたことがわかる。

オール沖縄の原点

 その後、占領当局は布告発令という強権を発動し、亀次郎市長を追放する。だが、不屈の男はあきらめなかった。13年後の1970年、戦後沖縄発の国政参加選挙で、衆議院議員に当選したのである。国政の場でも亀次郎節は健在だった。「沖縄返還」をめぐり、佐藤栄作首相を追及した国会質問の映像は本作品のクライマックスといえる。

 沖縄戦犠牲者の遺骨収集時の体験から質問を切り出した亀次郎。「惨殺された同胞の魂に報いる道は、基地を撤去させて侵略と戦争の根源を一掃することである」。それが彼の闘いの原点だった。

 だが、現実はどうだ。日米両政府が交わした沖縄返還協定は基地の継続使用を目的としたものだ。住民の土地を米軍に提供するために、日本政府は沖縄限定の法律まで制定した。亀次郎は沖縄の怒りを佐藤首相にぶつけた。

 「この協定は、決して沖縄県民が26年間血の叫びで要求した返還協定ではない。この沖縄の大地は、再び戦場となることを拒否する! 基地となることを拒否する!」。質問はいつのまにか魂の演説に変わっていた。

 後日談がある。国会内で亀次郎と出くわした佐藤首相は「君の本を読んでいるよ。本当に大変な苦労があったんだなぁ」と声を掛けてきたという(沖縄への核持ち込みに関する密約を結んだくせに厚顔無恥にもほどがある)。亀次郎はこう返した。「そうだよ、アンタたちが僕たち沖縄を切り捨てたからだよ」

 佐古監督は本作について、「沖縄の戦後史」であると同時に「沖縄を切り捨ててきた、日本の戦後史でもある」と語る。その事実を共有しないと「まっとうな議論は起こらないだろう」とも。現在まで続く沖縄の反基地闘争の原点、オール沖縄の闘いの原点を知る上で、最適の映画と言えよう。 (O)



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