2019年10月04日 1594号

【東京電力刑事裁判 原子力ムラ免罪の不当判決/再び重大事故を招き寄せる/被害者は誰ひとり納得しない/敵より一日長く闘う】

 福島原発放射能大量放出事故を引き起こした東京電力旧経営陣の刑事裁判で東京地裁は9月19日、勝俣恒久・元会長ら3被告全員に無罪の判決を言い渡した。「国の原子力政策を忖度(そんたく)」「被害者は誰ひとり納得しない」と強い抗議が突きつけられている。

 午後1時15分すぎ、福島原発告訴団メンバーの女性2人が「全員無罪 不当判決」の紙を手に裁判所敷地から出てきた。「許さない」「何考えてるんだ」「ひどすぎる」。つめかけた人びとが叫ぶ。

良心はないのか

 浪江町から福島県内に避難する今野寿美雄さんは「裁判長、何に忖度してるんだ。良心はないのか。高裁に行って闘うぞ。この腐った日本を直しましょう」と声を張り上げた。「何万人もの人がふるさとに帰りたくても帰れない。どう思っているのか」と問いただすのは、福島市在住の佐々木慶子さん。

 事故当時、西郷村に住み、今は北海道で暮らす地脇聖孝(まさたか)さんは「腹の底から怒りを感じる。300人近い子どもが甲状腺がんに。誰も責任をとらないのか。私たちは諦めない。敵よりも1日長く闘う。敵が100年原発を推進するなら私は100年と1日、反対を唱え続ける。敵が1万年原発推進を唱えるなら私は1万1年、生きて闘い続ける」ときっぱり語った。

 判決要旨の中身はすべて被告側主張の引き写し。「原発の運転には社会的な有用性があり、停止となればライフラインに影響」「長期評価(国の地震調査研究推進本部の地震予測)を取り入れる方針を東電として決定した、との(山下和彦)地震対策センター長の供述は信用性に疑義」「長期評価は専門家から疑問が示され、国や自治体の防災計画に取り込まれなかった。信頼性があったと認めるには合理的な疑いが残る」……

 極め付きは「結語」の文言だ。「震災時点では、事故発生の可能性がゼロないし限りなくゼロに近くなるよう必要な措置を直ちに講ずるといった絶対的安全性の確保までは前提とされていなかった」

司法の歴史に汚点

 検察官役を務めた石田省三郎弁護士は記者会見で「国の原子力行政を忖度した判決」と断じ、「もし事故が起これば取り返しのつかない施設を管理運営する会社の最高経営層として、あれでいいのか。長期評価の科学的な問題に裁判所があそこまで介入した判断をしていいのか。東電の担当者は長期評価を前提に対策を考えていた。それについて評価すべきだ」と指摘した。

 被害者代理人の海渡雄一弁護士は「司法の歴史に大きな汚点を残す判決だ」と前置きし、「山下供述の信用性に疑問と言うが、社長会議で(長期評価取り入れ方針を)説明済みとのメールや議事メモもある。判決要旨はそれを省略し、都合のいい部分だけつまみ食い。証拠認定のあり方としても全く間違っている」と批判。「再び重大事故を招き寄せる異常な判断。高裁で必ずや正義が叶えられた判決をかちとる」と決意を述べた。

 福島原発刑事訴訟支援団副団長の武藤類子さんは「裁判官は福島の被害に真摯に向き合ったのか。福島の現場検証を棄却したこと自体、誤り。最も責任をとるべき人の責任をあいまいにし、二度と同じ事故が起きないよう社会を変えていくことを阻む判決だ」と話し、即時控訴するよう検察役指定弁護士に求めた。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS