2019年10月11日 1595号

【ミリタリー 自衛隊「災害対処」は軍拡の隠れみの 予算は兵器でなく被災者救済へ】

台風被害放置で組閣

 9月末になっても停電が続くなど千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号。その上陸のわずか2日後、安倍政権は、「延期して被害対策、救援に当たるべきでは」との声をよそに予定通り組閣―新内閣発足を強行した。日頃から「危機管理に全力集中」を自賛する首相官邸だが、今回の「予定優先」は何より、軍拡予算と改憲のための体制づくりが大事との姿勢をあらわにした。

「災害に役立つ」宣伝

 歴代自民党政権は、一貫して、自衛隊を災害現場に投入することで「災害救助に役立つ自衛隊」をアピールし、国民の支持を取り付けることに腐心してきた。

 その結果、自衛隊を容認する雰囲気は着実に拡大し、2015年に実施された内閣府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」では「良い印象を持っている」が41・4%、「どちらかと言えば良い印象」が50・8%までになった。

 武力を持つ組織に対する意識調査としては、極めてあいまいで雑な設問であり、調査というよりは世論操作と言った方がいいが、こんな「世論調査」が「自衛隊に反対」を公然と言えなくするために効果を上げたことは間違いない。

 さらに、自衛隊の災害救助活動への国民の評価が高いことが最大限利用される。米国から“爆買い”する新装備(兵器)の導入理由にも必ず「災害対処等」がつけられる。例えば、海上自衛隊の「いずも」空母化のための改修も、水陸機動団の水陸両用車も、オスプレイも、「災害対処」が導入理由の枕詞(まくらことば)として使われている。だが、「いずも」の空母化と災害救助の間には何の関係もない。

 実際の予算額でみよう。2019年度の新たな物件費契約3兆3821億円のうち、東日本大震災での自衛隊活動実績から災害救援対策としての装備、活動強化費と認められるのは約700億円程度。全体の2・2%にすぎない。「災害救助」が軍備拡大の隠れみのであることは明らかだ。

軍は天災優先を敵視

 「国内の状態を見ると打ち続く天災によって国民は甚(はなはだ)しく痛めつけられている。社会政策上考慮すべき点は多々ある。軍部もこの点はよほどよく考えて貰わねばいかぬ」。こう語ったのは戦前の大蔵大臣・高橋是清(これきよ)である。1935年、帝国議会予算閣議での発言であった。2年前の岩手県東方沖でマグニチュード8・1の地震、前年の超大型台風(室戸台風)など災害が続発。政治家として常識的な主張であった。

 この主張を、満州事変(1931年〜1933年)後、急速に存在感を増していた軍部は激しく憎悪。翌1936年2月26日、青年将校らによって、81歳の是清は7発の銃弾を撃ち込まれ、軍刀で切りつけられた。内大臣の斎藤実(まこと)は40発の銃弾を撃ち込まれた。

 あれから80年余。世界はINF(中距離ミサイル核全廃条約)失効時代となり、新たな軍拡競争と核戦争の危機に直面している。

 この状況を救う道は軍縮しかない。だが、自衛隊=軍は軍縮を拒み、安倍新内閣は過去最大5兆3千億円超という大軍拡に暴走している。「予算は軍事ではなく、災害対処など国民生活に回せ」の声を大にし、軍縮予算へシフトさせる第一歩を築く時だ。

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会



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