2019年10月11日 1595号

【未来への責任(283)若者と考えた「徴用工」問題】

 9月22日、「考えてみよう『徴用工』問題 日韓の若者で」と題する討論集会が都内で開催された。韓国からは3名の若者が来日し、他に留学生2名も合流。日本側の学生・青年とあわせて20名余が参加した。

 「(徴用工問題を扱う)日本のニュースは、どれも同じ内容だという印象。一様に韓国が悪いと言っている」「たまにテレビを見ると嫌韓報道があふれている。会ったこともない人にそんなにひどいことが言えるのか不思議になるほど」「いま韓国にいるのかと錯覚するほど、日本で韓国に関する報道が多い。ひたすら韓国は悪いというふうに」―これが討論に参加した若者が見る日本のメディアの状況だ。これでは日韓関係が、国交正常化後「最悪」と言われるまでに険悪化するのも当然だろう。

 このような状況をどうしたらいいのか。それを考えるため、“大本(おおもと)”とも言うべき「徴用工」問題について日韓の若者は議論した。

 集会のはじめに、外村大(とのむら まさる)さん(東京大学教授)が「歴史をどう考えるか」「請求権協定をめぐって」「歴史問題の『和解』はありうるか」について提起し、若者に問いかけた。「強制動員は非常に大きな構造から起こり、個別的には様々な『ミクロの歴史』がある。史実を確定することは難しく、動員が強制なのか否かにこだわるのもあまり意味がない。植民地支配という構造そのものを見なければならない」。外村さんはこう指摘した。

 その後、3つのグループに分かれて討論が進められた。時間が短く十分な討論はできなかった。それでも「白熱して色々なことが話し合えたのは良かった」とグループ討議の司会者。韓国の学生からは「日本の大学生の個人的意見をこの機会に聞き、話しあうことができて良かった」「同世代の日本人と初めて政治的な話をした。私たちの立場を理解してくれて有意義だった」との感想が出された。

 その中で私はある学生に注目した。その学生は、父親の仕事の関係で子どもの頃は韓国に住んでいた。8月15日前後は日本人には危ないというので日本に一時帰国していたという。「その頃は周りでは“解決済み”というのが普通だった」。その学生は自分の体験をこう語っていた。そして、討議を始めたころは、「国と国が合意した。国に責任を求めるべきか」「必要以上に掘り返すのは、お互いの国にとって良くないのでは」と疑問を投げかけていた。ところがその学生は、感想用紙に「私は徴用工問題はもう解決済だと思っていた。しかし今回の討論を通して、まだまだ問題は残っていて解決策を探していく必要があるのだと思いました」と素直な受け止めを記していた。討論によってこの学生の中で小さな変化が起こったのだと信じたい。

 「日本政府は解決済=何もしない、というような姿勢をとっているように見えるが、そうではないと思う」「若い人はヘイト感情を持つというよりも問題の本質が分からないという人が多いと思うので、話していきたい」と感想を書いた人もいた。ここに運動のヒントと希望が見いだせると思う。

(強制連行企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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