2019年10月18日 1596号

【原発マフィアのブラックマネー/税務調査にあわてて「返金」…アウト/関電だけではない すべてを洗い出せ】

 「菓子折りに小判」。まるで時代劇を見るかのようだ。福井県高浜原発の地元有力者が関西電力幹部20人に総額3億円を超える金品を渡していた。電力会社が地元を懐柔するために多額の「協力金」をバラまいていることは知られている。その逆もあったのだ。政官財学の原子力マフィア。放射線被ばくに苦しむ市民の命・健康を軽んじて恥じない連中の「倫理観」は、こうしたブラックなマネーで満たされている。

火消しに走る関電

 事件は、9月26日付け共同通信報道で明るみに出た。北陸3県を統括する金沢国税局が18年1月、福井県高浜町の建設会社吉田開発株式会社に税務調査に入り、6月には同町元助役森山栄治(19年3月死去)を調べた。この調査で、関電幹部へのカネの流れを示す「森山メモ」が押収された。

 関電は9月27日、慌てて記者会見を開いた。「違法性はない」「個人情報」などと火消しを図ろうとするも炎上、10月2日に再度会見を行うはめになった。岩根茂樹社長は今度は、「(激高する森山が)怖くて返せなかった」と被害者面をした。吉田開発に国税調査が入ったと知るや翌18年2月、怖かったはずの森山が存命中にもかかわらず返金していたのに、だ。

 この記者会見の筋書きは、森山に国税調査が入った翌7月に社内に設置した調査委員会で出来上がっていた。端的に言えば、「金品贈答は森山の自己顕示欲の表れで、それに見合う関電からの便宜供与はしていない。原発事業の停滞を招かないよう森山といやいや付き合っていた」。

 報告書には、外部委員の弁護士に「(返金の努力をした)当該職員の境遇には、むしろ同情さえ禁じ得ない」とまで書かせ、問題は「良識を超えた贈答・接待を受けたこと」「前例踏襲主義の企業風土にある」と話をまとめた。関電は、会長八木誠、元原子力事業本部長豊松秀己の減給2割2か月と他の幹部への厳重注意で「けじめ」をつけたつもりだった。

利用しあう癒着関係

 関電と森山の関係は、「自己顕示欲」と「付き合い」であるはずがない。今年6月、「関西電力良くし隊」と名乗る告発文書が関電幹部や捜査機関、報道機関、市民団体などに送付されていた。「原発の建設、運転、定期点検、再稼働工事の過程で、工事費等を水増し発注し、お金を地元有力者および国会議員、県会議員、市長、町長等へ還流させ」などと腐敗の数々が指摘されている。

 水増し工事かどうか。関電は契約額を示さず「適正価格」とごまかすが、文書は内部事情に詳しい。検証に値する。森山に3億円の原資を渡した吉田開発は、関電からの受注額を13年の3億5千万円から17年には22億5千万円に7倍近く伸ばしている。とはいえ水増しがなければ3億円を捻出するのは容易ではない。

 森山は、高浜原発1号機の建設が始まった69年に高浜町に入った。助役に就いた77年以降、3、4号機の設置・運転にむけ暗躍した。「発電所立地当時の書類は、今でも自宅に残っており、これを世間に明らかにしたら、大変なことになる」(関電報告書)と森山は、公開をはばかる文書の存在をちらつかせた。

 助役を退職した87年以降も関電の子会社関電プラントなどの顧問、発電所警備を請け負う警備会社の会長などの職につき、切っても切れない関係を続けていた。10年に高浜原発で初のMOX燃料試運転にこぎつけた時も、反対派町長に圧力をかけている。原発推進で結びついたマフィアが互いに利用しあったことは間違いない。


政官財のもたれあい

 原子力ムラの住人は関電の不始末をどう擁護しているか。

 経団連中西宏明会長は「八木さんも岩根さんもお友達。うっかり変な悪口も言えない」(9/27)と茶化した。中西は原発メーカー日立製作所会長、原発推進の第一人者であるだけに、他人事を装いたいのだ。

 政府は関電以外に飛び火することを恐れた。菅原一秀経産相は電力各社の自主調査に任せた。関電以外の電力9社と日本原電、原電開発は数日後「事例はない」と言い切った。追及はしない。菅原は経産相に就任後「原発ゼロは現実的ではない」と発言。原発依存低減の公約も忘れ、今や立派な原子力ムラの住人になったのだ。

 官僚の動きも見逃せない。金沢国税局が「吉田開発」の税務調査に入った時期に、当時の局長が「辞職」を申し出たという(10/5日刊ゲンダイ)。確定申告の繁忙期に「辞職の申し出」。当時の国税庁長官は森友問題もみ消しの中心人物、佐川宣寿。税務調査の全容を知る局長に対する、報道機関への「情報漏洩」の問責か。ブラックマネーの流れを記した「森山メモ」の封印か。勘ぐられて当然だ。

 政治家はどうか。森山の警備会社とその関連会社は元防衛相稲田朋美に政治献金を提供していた。関連会社会長は05年稲田初当選から14年まで後援会連合会長を務めていた。

 放射線被ばくに苦しむ被災者支援すら打ち切り、ブラックマネーに浸る原発マフィアを決して許してはならない。
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