2019年10月18日 1596号

【千葉大停電の背景―利益至上経営/東電も安倍も被害者切り捨て】

 9月9日から首都圏を襲った台風15号は各地で大きな被害をもたらした。とりわけ千葉県内で発生した大停電は、復旧まで1か月近くかかる地域もあった。東京電力の復旧見通し発表は二転三転し、停電対応ができず熱中症で死亡した高齢者は直後の報道だけでも3人。昨年9月北海道胆振(いぶり)東部地震の時でさえ、復旧まで2〜3日程度だった。今回、復旧に異常に時間がかかった背景として、長く続けられた利益至上経営による電力インフラの弱体化がある。

設備投資4分の1に

 停電被害拡大の原因は、君津市にある高圧送電鉄塔が倒壊したことだが、この鉄塔は1972年に建てられたもので老朽化は明らかだった。

 1991年に、送配電網への設備投資に8千億円を充ててきた東電。だが2015年にはわずか約2千億円と4分の1にまで落ち込んでいる。東電は、設備投資の減少について、新設減であり維持補修費を減らしているわけではないと説明する。しかし、企業の固定資産は老朽化すればするほど減価償却費が減少し、見かけ上は利益が増える。通常はこの利益の一部を老朽化した設備の更新や維持のための設備投資に充てるが、最近は短期利益追求を重視するあまり、こうした設備投資を行わなくなっている。

 昨年、関西地方を襲った台風21号でも、停電からの完全復旧に17日間かかっている。いったんインフラが被災するとなかなか復旧しない背景に、電力会社の利益至上、新自由主義的経営がある。

 40年を超える老朽原発の運転延長問題も同様だ。必要な安全対策を怠ったことが福島原発事故の原因となったことは、刑事裁判や民事裁判の多くの証拠からも明らかだ。

森林政策の失敗も

 台風で多くの倒木が発生し、各地で電柱が倒れたことも復旧が遅れた大きな原因だ。この電柱倒壊多発の背景として森林荒廃を指摘する声も、林業専門家から出ている。

 もともと日本の森林は多種多様な樹木が混在する雑木林で、この多様性が土壌の保水機能の維持につながっていた。この雑木林を伐採し、スギなど成長の早い樹種を集中的に植林する森林政策が戦後になって採られた。これが森林の保水機能を失わせ、台風や豪雨のたびに倒木や土石流を発生させるようになった。

 さらに、千葉特有の樹種である「山武杉(さんぶすぎ)」の倒壊が今回の台風では目立った。山武杉の幹が内部から朽ちていく「溝腐れ病」は、適切な間伐(注)が行われないと発生しやすくなる。

 国は、大量の木材を高く売るため成長の早い樹種を集中的に植林し、経費を節減するため林業従事者も減らす政策を一貫して続けた。今回の倒木多発はこうした新自由主義的森林政策とその失敗の結果なのだ。

 にもかかわらず、政府は今年春の通常国会で、国有林の伐採に民間企業の参入を認める国有林野管理経営法の「改正」案を成立させた。新自由主義をさらに強化する改悪であり、国有林の荒廃をさらに加速させる。

災害対策より内閣改造

 真夏並みの残暑が続く中、千葉では停電が長期化して熱中症による死者も出た。だが安倍政権は、被害が深刻化している事態もそっちのけで、9月11日内閣改造強行。従来の災害では設置してきた非常災害対策本部も設置せず、関係閣僚会議も開かなかった。

 改造で就任した武田良太防災担当相は、被害拡大の原因があたかも災害慣れ≠オていない千葉県にあるかのように責任転嫁する発言を続けた。東日本大震災を上回る規模となった農業被害に関しても、政府は「自助、共助」が基本で、農業共済加入者への救済は口にしても未加入者は救済しないという姿勢だ。安倍に至っては、千葉被災地の現地視察すらしていない。

 昨年7月、西日本豪雨の際には「赤坂自民亭」騒動があった。安倍政権の被災者無視は千葉だけではない。西日本豪雨をはじめ、東日本大震災の被災者切り捨て政策にも通じる。安倍政権を倒し、災害対策を根本的に転換しなければならない。

(注)間伐 樹木同士の間隔を保つため、生えすぎた木を伐採すること。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS