2019年10月18日 1596号

【「全世代型社会保障」の正体 当たり前に生きられる社会を壊す 全世代への負担増と給付減】

 「負担のあり方について、おおいに前向きに検討したらいい」。中西宏明経団連会長は9月20日、全世代型社会保障検討会議(安倍晋三首相が議長。以下、検討会議)初会合後にこう発言した。検討会議は、社会保障制度解体の新たな司令塔の役割を持つ。そこに参加する経団連会長が負担増を公然と表明したのだ。中西は「まだまだ経済界としては不満がある」と語ったこともある。こうした発言の真意は、さらなる法人税減税を実現するため、国民に「痛みを覚悟せよ」と迫るものだ。

 検討会議委員には労働界や社会福祉現場の代表者は一人もいない。経団連、経済同友会の代表などと政府寄りの学者で固められ、財界と政権の意向がそのまま反映する。




給付減の印象隠し

 安倍政権は社会保障の給付が高齢者中心、負担が現役世代に偏っている≠ニ「世代間対立」をあおってきた。そして、高齢者への給付を減らし、その分を現役世代に回す≠ニ宣伝を繰り返してきた。その際、高齢者への給付削減の露骨な意図と印象を薄めるため「全世代型社会保障」という官製用語が使われている。

 全世代型社会保障という用語について、社会保障制度改革国民会議の報告書(2013年8月)は「すべての世代を支援の対象とし、また、すべての世代がその能力に応じて支え合う全世代型の社会保障とすることが必要」と解説するが、後半部分「すべての世代がその能力に応じて支え合う」に眼目がある。

 検討会議が狙うものは、給付減も負担増も全世代に担わせることである。その柱は、高齢者に対し給付削減に加えこれまでの何倍にもなる負担を強いることだ。検討会議での議論の指針になると想定される財政制度審議会の建議(6/19)を見てみよう。

 建議は、給付と負担がアンバランスであるとし、「この乖離(かいり)はさらに拡大することが見込まれており、このままでは制度が持続可能とはいえない」と危機感をあおる。2022年に団塊の世代が75歳に入り始めるため、社会保障費が急増するとの見通しから「2019年度〜21年度を『基盤強化期間』と位置付け、社会保障のための負担の在り方の見直しと社会保障給付の伸びの抑制が不可欠」と提言する。つまり、給付削減と負担増を今後3年間で実行せよ、と圧力をかけているのだ。

介護 医療 年金 総破壊

 安倍政権は、グローバル資本の利益拡大と軍事をすべてに優先する国家改造への総仕上げに「社会保障改革」を挙げている。他に類似の会議や審議会があるにもかかわらず、官邸直轄の検討会議を立ち上げたのはそのためだ。すでに社会保障制度改悪案は出そろっており、安倍は検討会議を使ってそれらを実行しようとしている。「最大の焦点は、先送りが続いてきた国民の負担増や給付カットに踏み込むかどうか」(9/21朝日)とメディアにも後押しさせる。

 各分野での改悪内容を見てみよう。

 介護保険では、利用者の自己負担(原則1割)を2割または3割負担とする対象者の拡大、ケアプラン作成費用に自己負担の導入、要介護1と2の生活支援サービスを市区町村の総合事業に移す給付はずしなどが予定される。これらは社会保障審議会介護保険部会で検討されてきたものだ。来年の介護保険法改定に盛り込まれようとしている。

 医療では、75歳以上の窓口負担(原則1割)を2割に引上げ、薬剤の公的医療保険適用範囲の見直しなどである。検討会議で「小さなリスクは自助」との発言があったように、軽度の医療については保険外にしようとする狙いがある。医療関連法案の再来年提出が予定され、高齢者を中心に給付減と負担増を強いる。

 年金では、8月に発表された公的年金財政検証結果を使って年金削減がもくろまれている。年金では生活できないと脅して高齢者の就労を強要し保険料納入者を増やすことや年金受給年齢を引き上げることなどに重点が置かれる。

財源は大企業 富裕層課税

 医療の受診抑制や介護の利用抑制は、目先の支出削減にはなるだろう。だが、適切な医療、介護が受けられないままでは、症状や身体状態の悪化は必至だ。そうすれば軽度よりも多額の費用がかかり、結果的に必要な費用は増えざるをえなくなる。政府はそれを承知でカネがない年寄りは死ね≠ニ自己責任を押し付ける。社会保障費削減は人間が当たり前に生きていける社会を崩壊させるものだ。

 社会保障は、必要となった時にだれもが利用できるものでなければならない。税金はそのためにある。必要な費用の増加は、負担能力に応じた課税でまかなうべきだ。これまでに何百兆円にものぼる異常な負担軽減を受けてきた大企業と富裕層への課税を強化し、応分の負担を求めよう。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS