2019年10月25日 1597号

【かんぽ不正 報道に圧力/会長が謝罪文、番組続編を延期/「安倍の影」にまた脅えたNHK】

 NHKがまた圧力に屈した。かんぽ生命保険の不正販売問題を追及した番組について日本郵政グループの抗議を受け、続編の制作を一時見送っていたのである、日本郵政の背後には放送行政を主管する総務省がいる。また、NHKの経営委員長はアベ友人事で送り込まれた人物だ。安倍忖度(そんたく)によって報道の自由が歪められたことは明らかだ。

調査報道つぶし

 「郵便局が保険を“押し売り”!?/〜郵便局員たちの告白〜」。昨年4月24日放送の『クローズアップ現代+』は、かんぽ生命保険の不正販売の実態を特集した。郵政の信頼を大きく揺るがす事態に発展した問題を最初に大きく報じたのがこの番組である。

 「高齢の母が郵便局員に保険を押し売りされた」。取材のきっかけは視聴者からのメールだった。情報提供を呼びかけたところ、現役職員や元職員から驚きの証言が集まった。「ノルマに追い詰められ、お客様を詐欺まがいで契約させるパターンはしょっちゅうみます」「高齢者の場合、だましやすい」等々。

 民営化以降、利益至上主義に拍車がかかった郵便局。その実態を番組は丹念な取材で明らかにした。これに焦った日本郵政グループはただちに続報つぶしに動いた。NHK会長に対し、「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」として、情報提供を求めるネット動画の削除を申し入れたのである。

 対応にあたった番組スタッフが「会長は番組制作に関与していない」と説明したところ、郵政側は「NHKはガバナンス(管理統制)が全く利いていない」と猛反発。NHKの監督機関である経営委員会に「ガバナンス体制の検証」を要求した。鈴木康雄・日本郵政副社長(元総務事務次官)は経営委員会の森下俊三委員長代行と接触し、直接不満をぶつけた。

 すると経営委員会は郵政側の申し入れに応じ、NHK会長を厳重注意した。会長は事実上の謝罪文を日本郵政に提出。情報公開を求める動画は削除され、続編の制作も延期となった。それでも郵政側は満足せず、鈴木副社長が「幹部・経営陣による番組内容の最終確認」を求める書簡をNHKに送り付けた。

経営委は放送法違反

 以上がNHKが圧力に屈したてん末である。情けない限りの対応だが、NHK上層部は何に脅えたのか。ある幹部は「相手は普通の企業じゃない。総務省だと認識していた」(10/5共同)と語る。

 郵政グループ3社(日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の持株会社である日本郵政。その筆頭株主は政府だ。そして、郵政グループの幹部には、放送行政を所管する総務省からの天下り組が大勢いる。なかでも鈴木副社長は、第1次安倍政権で総務大臣だった菅義偉官房長官に抜擢され、事務方トップにまで上り詰めた人物である。

 前述の書簡で鈴木副社長は、自分が「放送法改正案の作成責任者」だったことを強調している。鈴木に恫喝されたNHK幹部が安倍官邸を意識したことは明らかだ。

 NHK経営委員会の問題もある。経営委はNHKの経営方針や予算などを議決する権限を持ち、会長らNHK執行部を監督する機関ではあるが、個別番組の内容に干渉することは禁じられている(放送法32条2項)。今回の「厳重注意」は放送法に抵触する行為なのである。

 そのうえ、経営委は「厳重注意」を決めた際の議事録を作成していない(放送法41条は会議ごとの議事録作成を義務づけている)。法律違反の番組介入を隠すために法律違反を重ねたということだ。

アベ友人事で支配

 経営委の石原進委員長(JR九州相談役)は官邸と太いパイプを持つ。特に、九州財界つながりで麻生太郎財務相と親しい関係にある(麻生の弟は九州経済連合会の会長)。NHKの経営委員に就任して以降も、九州財界の意向を代弁し、政府に原発再稼働を再三要請していた。改憲右翼組織「日本会議福岡」の名誉顧問だったこともある。つまりはバリバリのアベ友だ。

 NHK経営委員会は「企業経営者」や「学識経験者」で構成され、委員は首相が任命する。その仕組みを安倍政権は悪用し、経営委に安倍応援団を次々と送り込んできた。どう考えても「学識」があるとは思えないネトウヨ作家の百田尚樹を起用したこともある(すでに退任)。

 人事権を駆使して組織を意のままに操る手法を安倍政権は得意としてきた。NHK支配もそのひとつである。今回の報道圧力問題を国会で追及された安倍晋三首相は他人事のような答弁を連発しているが、「報道の自由」を歪めているのは彼自身なのだ。

   *  *  *

 「萎縮している報道機関など存在しない」と安倍首相は言い切った(10/7衆院本会議)。報道統制の心配は杞憂(きゆう)だと言いたいようだが、現実には政権の意向を忖度した報道がまかり通っている。政府がことさら圧力をかけなくても、メディアが自主規制してそうなっているのであれば、それこそ究極の報道支配と言えるのではないか。 (M)



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