2019年11月01日 1598号

【どくしょ室/消費税が国を滅ぼす/富岡幸雄著 文春新書 本体900円+税/民主主義に反する不公平な税】

 本書のタイトルは筆者の危機感の表れ。決して大仰なものではない。消費税批判の類書が多い中で、本書の特徴は筆者の経歴にある。「学徒出陣」させられた筆者は、敗戦後、税務署・国税庁勤務を経て大学教員として通算73年間、税政研究に費やしてきた。「税制のゆがみは私の人生がゆがめられているようなもの」とまで言い切る。

 敗戦後、国民主権を体現する「申告納税」制度の定着に尽力した筆者は、一律大衆課税である消費税導入は「税制の民主化を崩壊させる」と憤る。筆者の求める税制とはどんなものか。「公平・中立・簡素」「応能負担」の原則が貫かれていることだ。これらの原則を否定する消費税を真っ向から批判するのが本書だ。

 軽減税率やポイント還元の複雑さや低所得者ほど負担が強いられる逆進性をみれば、今回の消費税増税がいかに税制をゆがめているか納得がいく。飲食料品の税率を軽減(据え置き)しても逆進性は消えない。逆に低所得世帯を対象とした医療・保育など自己負担上限額を設定する「総合合算制度」の導入が見送られたのだ。

 消費税は社会保障や財政再建の財源確保だと言い張る政府への対案は、「消費税ではなく、法人税の引き上げを」。だが、市民の間でも「その通りだ」とはなかなかならない。多くのメディアが「日本の法人税は高い」という政府の言い分を鵜呑みにしているからだ。これ以上、負担を増やすとますます企業が海外へ流出し、日本国内に空洞化が進んでしまう。経済が悪化するのではと不安をあおる。

 筆者は、消費税が日本経済を谷底に突き落とした元凶、消費税減税こそ日本経済再生の道だと主張する。

 法人税、法人住民税、法人事業税の3税をあわせた法定総合税率は29・74%と英米に比べ確かに高い。だが実際に納めている税率(実効税負担率)は法定の6割程度の17・46%に過ぎない。資本金100億円を超える巨大企業は16・25%にしかならない。ソフトバンクグループの実効税負担率は0・003%、日本製鉄は1・46%だ。

 筆者は『税金を払わない巨大企業』(文春新書)の著書で、いかに大企業が税逃れをしているかを暴いた。その反響は大きく、計算方法に異を唱えるものもあったという。筆者はその反論を踏まえ、さらに詳細に税逃れの手法を説明している。そのからくりは、ぜひ本書を読んでほしい。

 戦時中、戦費調達を目的に計画された「取引高税」は戦後、「売上税」「付加価値税」などと名を変えながら浮上しては民衆の反発にあい、政権退陣の要因になってきた。筆者はその都度反対の論陣を張ってきた。不公平税制がいかに国を滅ぼすものか、公約を踏みにじる議員、不見識な官僚、政治戦略に利用する政権にたいする筆者の怒りがあふれている。   (T)
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