2019年11月08日 1599号

【中東へ空母派遣か/なし崩し的派兵で武力行使へ/安倍改憲にらむNSC国家安全保障会議強行策】

 安倍晋三首相は10月18日の国家安全保障会議(NSC)で中東への自衛隊派兵の検討を指示した。米政府が主導する対イラン包囲網には参加せず、独自行動をとるという。戦争法を強行成立させた安倍政権は、平時から戦時へなし崩し的海外派兵、武力行使への運用を常に狙っている。行きつく先は9条改憲であることは間違いない。

「中東情勢の悪化」?

 安倍首相が派兵理由にあげたのは「中東情勢の悪化」だ。ところが菅義偉(よしひで)官房長官は記者会見で、「ただちに船舶の防護を要する状況にはない」と説明。「調査研究」のための派遣であり、しかも、焦点となっているホルムズ海峡は対象から外すと言う。この「調査研究」では日本船舶防護のための武力行使はできない。そこで菅は「今後、様々なことを検討していく」と付け加え、表向きとは違う含みを持たせた。

 この点について、防衛省防衛政策局長が衆院外務委員会(10/23)で、「海上警備行動に切り替えることもありうる」旨の答弁をした。つまり、状況次第で武力行使に至る道筋を用意しているのだ。

 安倍の言う「中東情勢の悪化」はトランプ米大統領の対イラン戦略がもたらしたものだ。核合意を一方的に離脱し、経済制裁を加えた。5月〜9月にかけて、タンカー攻撃、ドローン機撃墜、石油施設の破壊など一触即発の事件が立て続けに起こった。米政府は証拠も示さず「イランの犯行」を繰り返すが、同意するのはサウジアラビアなど一部の国に限られている。

 だが、これほど事件が頻発しても、例えば原油価格は落ち着いている。生産量を左右する重大事態は起きないとの観測だ。日本船主協会も自衛隊に護衛の要請をしていない。

 「危機」を煽り海外派兵の正当化を図る安倍政権だが、イランとの関係を維持するために、有志連合からは距離を置いてきた。今回の派遣決定にあたって、イランとは、仏政府とあわせ総額2兆円前後の金融支援と有志連合不参加、ホルムズ海峡除外で折り合いをつけた。そのための「独自行動」であり、「調査研究」を名目にしたのだ。

「調査研究」から警備へ

 だが「調査研究」目的の派兵はあまりに無理がある。政府があげた法的根拠は、防衛省設置法第4条1項18号「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」。だが、自衛隊の任務を定めるのは自衛隊法。そこには該当するものはない。行政機関である防衛省の任務であったとしても戦力である自衛隊の任務とすることはできないはずだ。

 「調査研究」による派兵は01年、米軍のアフガン攻撃支援行動の時、使われた。テロ対策特措法を成立させた政府は法に定める基本計画の決定前に、海上自衛隊の護衛艦2隻、補給艦1隻をインド洋に差し向けた。その時、苦肉の策としてひねり出した。

 今回も任務変更の可能性は高い。佐藤正久前副外相は「電話閣議で対応すると決めておけば、『調査研究』から『海上警備行動』に切り替えることは難しくない」と語っている(10/23毎日政治プレミアム)。自衛隊法に基づく「海上警備行動」は武力による威嚇、攻撃は可能。ひとたび洋上に出さえすれば、武力行使のハードルなど無きに等しい。

 あらたに派遣される護衛艦。海賊対処行動をしているアデン湾から離れたアラビア海北部までの海域での活動を検討しているという。監視行動は哨戒機が行なう。その場合、ジブチ基地から飛び立っていては活動範囲をカバーできない。沿岸の他国軍の基地を利用しないとすれば、洋上で補給・整備のできる艦船が必要となる。つまり、哨戒ヘリ搭載の「いずも」型護衛艦(空母)が候補となるはずだ。もし空母が派兵部隊に加わるとすれば、侵略軍への一線をまた越えていくことになる。

急ピッチの派兵体制

 今回の派遣決定はトランプへの義理立てではない。NSCの事務局国家安全保障局長が外務省出身の谷内(やち)正太郎から安倍側近の一人、警察官僚出身の北村滋に替わってひと月。中東派遣が速やかに決まった。インド海軍への自衛官の派遣も進めている。海自は17年以来、インド海軍と合同演習を行なっている。ジブチと日本を往来する護衛艦もインド洋沿岸国に立ち寄る。今回の中東派遣は、中国の「一帯一路」戦略に対抗する「インド太平洋構想」の一部になっているのだ。

 安倍にはもう一つの狙いがある。9条改憲への環境作りだ。軍事目的の海外派兵を常態化させ、改憲への抵抗感を薄れさせることだ。派兵先で何か起これば、自衛隊の制約を俎上(そじょう)に載せ「自衛隊員がかわいそう」キャンペーンを張るつもりに違いない。

 戦争できる国づくりに暴走する安倍はいつでもどこへでも派兵できるよう一連の戦争法を成立させてきた。平時から戦時へなし崩し的な運用をめざしている(表)。「調査研究」行動は、ひとたび米イラン間で交戦があれば「重要影響事態法」、有志連合が戦闘に入れば「武力攻撃事態法」による戦闘行為へと移行する気でいる。実質的に憲法9条は空文化する。



 だが、そもそも誰に対して銃口を向けるのか。「中東情勢の悪化」は米政府がイラン核合意に復帰し、経済制裁を解除すれば解決する問題だ。

 いま全国各地で安倍の戦争国家づくりに抗する戦争法違憲訴訟が闘われている。22地裁で25の裁判、原告総数7704人(10月2日現在、安保法制違憲訴訟の会ウェブサイト)。10月30日に東京の派兵差し止め訴訟が結審し、11月7日に東京国家賠償訴訟判決。来年1月22日には群馬訴訟が結審し、1月28日大阪訴訟判決と続く。好戦勢力の好き勝手にさせてはならない。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS