2019年11月08日 1599号

【教員の変形労働時間制導入“ブラック”労働と過労死に拍車 給特法改悪案は廃案だ】

 安倍政権は10月18日、公立小・中・高校等の教員に「一年間単位の変形労働時間制」を導入する法案(公立学校等の教員給与に関する特別措置法<給特法>改悪案)を国会に提出した。これは、学校現場での過労死水準の長時間労働を追認し、さらに深刻化させる。

異常な教員の長時間勤務

 文部科学省の2016年度全国調査では、休日出勤を含む週当たりの平均勤務時間は小学校教員63時間、中学校68時間。過労死ラインとされる週60時間を超える。

 教員に長時間労働を強いている背景に、早期英語教育やIT活用等の新政策、「能力」主義人事評価や数値目標・結果の報告書類作りの蔓延などがある。しかし、根本原因は、深刻な教育実態に対応できない教職員不足と世界でも異常に多い学級定員という教育条件の劣悪さだ。

 これほどの長時間労働=残業なら本来超勤手当も膨大になるはずだが、公立学校教員は100%不払いのサービス残業だ。その「根拠」とされるのは、1971年制定の給特法で「教職調整額(手当)4%の支給」とセットで「時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない」(第3条)となり、労働基準法の適用除外とされたことだ。

 当時、日本教職員組合は勤務時間短縮と超勤手当支払いを要求して闘っていたが転換。教員は労働者ではない≠ニ超勤手当を拒否する自民党政府に屈服し給特法は成立した。

 同法第6条には「正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」とあるが、全く有名無実だ。

 給特法制定時、小・中学校教員の時間外労働は週平均で1時間48分だった。現在は週約20時間とその10倍を大きく超える。4%の手当と引き換えに過労死水準に達する不払い残業を強いられている。ところが、この現実を「教員が自主的に残っているだけ」とするのが文部科学省の一貫した見解だ。ここに多くの過労死をつくり出す土壌がある。


でたらめな変形労働時間制

 今回の改悪案は、給特法による超勤不払いはそのままで、平常授業がある日を「繁忙期」として勤務時間を例えば2時間延ばして残業の実態を追認し、その振替休日を授業のない夏休み中などにまとめて取らせるというもの。その「繁忙期」の上限指針は「月100時間未満」とされ、過労死ラインすら超える。

 8時間労働制を否定し、教員の長時間労働を改善するどころか改めて合法化するとんでもない制度導入だ。

 しかも、現行労基法では変形労働時間制導入には職場の過半数の同意とともに労使協定が必要だが、法案では条例で定めるとされ、教員の意思も無視される。

 これは、過労を深刻化させ、教員を一層疲弊させる。今でも定時の勤務時間を過ぎてから職員会議が開かれている実態がある。保育所の送迎、介護事情のある人や、体調不安を抱える人は、働き続けること自体ができなくなる。

教職員の増員しかない

 では何が必要か。サービス労働の元凶、給特法を廃止し、労基法を適用して8時間労働を守らせることだ。残業せずとも生活できる賃金を保障させるとともに、残業代不払いではなく正当な超勤手当支給が労働時間規制の強化になる。そのためにぜひ必要なのが、現在の子どもたちが抱える問題に対応し、長時間労働を解決するために、教職員を大幅増員することだ。その増員は、1年ごと雇用の非正規教員ではなく、正規教員で進めなければならない。

 安倍政権は、法定の教員定数についても非正規教員化してきた。大阪市では、安倍と維新市政が結託した「国家戦略特区」指定で、今年度から全国初の公設民営中学校(学校法人への民間委託)が開校した。教員も非正規雇用がほとんどの実態で、民営化加速の先行例にされようとしている。地方自治体に任さず、教員定数の全国最低基準と財源措置を定める新しい基準法制定へ社会的運動が課題だ。

 公教育にカネを出さず、教員定数増を拒否し、長時間残業をより深刻化させる。それは公教育そのものの解体につながる。1年間単位の変形労働時間制導入は、教員の命を奪い、公教育を崩壊させる。給特法改悪案は廃案しかない。 
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