2019年11月08日 1599号

【コラム見・聞・感/八ッ場ダム礼賛論に異議あり】

 東日本全域で記録的な降雨量となり、多くのダムで緊急放流を招いた台風19号。緊急放流はダムが満水となりあふれるのを防ぐため、流入量と同じ量を下流域に放流するものだ。大雨でただでさえ川の流量が増し、最も危険なときに下流域の水量をさらに増やす。何のためのダムかと思う。

 そんな中、無駄な公共事業の象徴と言われ、民主党政権時にはいったん凍結が決まった八ッ場(やんば)ダムを巡って「八ッ場ダムが利根川の氾濫(はんらん)を防いだ」という情報がネットで流れている。発信源は不明だが、血税垂れ流し公共事業万歳のアベ信者だろう。

 凍結の余波で遅れた工事がこの夏に完成し、試験湛水(たんすい)がようやくこの10月に始まった八ッ場ダム。筆者は10年ほど前に建設現場を訪れている。JR東日本による信濃川からの不正取水が発覚、JRウォッチのメンバーでツアーを組んだ。民主党政権は成立前。半世紀経っても本体工事に入れないダムは「永遠に完成しない」と思われていた。

 八ッ場ダム反対運動を続けてきた「八ッ場あしたの会」関係者に電話した。電話に出た方は「ネットの噂」を即座に否定した。「ダムの治水効果は近い場所ほど大きく、遠いほど小さくなります。八ッ場ダムから遠く離れた千葉県銚子市まで八ッ場ダムで救われたという説には無理があります。八ッ場ダムによって利根川の流量を低くできるとしても17a程度と考えられていますが、国交省はこの間、利根川の底に70aもの泥が積もるのを放置してきました。この泥を取り除く方が氾濫を防ぐにははるかに効果があります」と明快だ。

 民主党政権が工事を凍結せず早々と完成していれば、今頃本運用中の八ッ場ダムは満水状態で、他のダムと同様、緊急放流に追い込まれていたのは間違いない。事実などどうでもいいアベ信者らには馬耳東風だと思うが、心あるみなさんのためにそのことははっきりさせておきたい。

 今回の台風では千曲川も氾濫し、長野県で大きな被害が出た。「信濃川は下流域に当たる新潟県側の呼び名で、長野県では同じ川が千曲川と呼ばれます。下流の人びとが、川の恵みをくれる上流の人たちに感謝し、上流域の旧国名を川の名前にしたのです」。10年前の訪問時、現地を案内してくれた元十日町市議、根津東六さんの言葉を私は今も忘れない。川の恵みと共存してきた地域の人びとの生活を破壊したダムの罪は大きい。

 付近には「恋の病」以外は何でも治るとされる名湯・草津温泉もある。現地の人と話しているうち、また訪問してみたくなった。(水樹平和)
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