2019年11月08日 1599号

【原発避難者の住まいと人権を守ろう/当事者が自ら窮状を訴える/あなた方は孤立していない/「カナリア」を鳴きやませてはならない】

 福島県は避難先の国家公務員宿舎を退去できない被害者に対し、今年4月分から「家賃の2倍の損害金を払え」との請求書を毎月送りつけ、契約を結んでいなかった5世帯を12月にも提訴しようとしている。被曝を逃れるための避難で心身を壊し、困窮に陥っている被害者から生活の基盤である住まいを奪うことは、人権の基本を無視する暴挙であり、断じて許されない。

 10月26日都内で、自らも避難者である熊本美彌子さん(東京に避難)、羽石敦さん(大阪)、福島敦子さん(京都)、村田弘さん(神奈川)と避難の協同センターの瀬戸大作事務局長の5人が個人の資格で呼びかけ、「福島原発事故避難者の住まいと人権を守ろう!10・26集会」が開かれた。避難当事者20人を含む120人が参加した。

 経過を報告した村田さんは「オリンピックに合わせて避難者をゼロにするのが国の方針。被害県である福島県はその尖兵となっている。被害者たちを絶対支えていく」と強調。瀬戸さんは「週刊新潮が『避難者は福島に帰れ』と福島県民を分断する記事を載せた。群馬訴訟控訴審では国が原告の主張に『避難区域外に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となる』と反論した。避難者一人ひとりのことが心配。闘うと同時に、どう一人ひとりが安心して暮らせる住宅提供のお手伝いできるか考えている」と述べた。

 集会のメインは避難当事者自身の訴えだ。

 家賃2倍を請求されている郡山市からの避難者、瀬川芳伸さん。「なぜ福島に戻らないのか。原発事故以来、私たちは本当のことを教えられていない。甲状腺がんの検討委員会は密室。避難区域を決めた『有識者』は匿名。除染するしないは住む人の自主判断」と前置きし、「裁判所に引っ張られたくない、と悔しかったが契約にハンコを押した。県の役人は、契約の『自然災害補償自己負担』は請求しないが『2倍請求』は契約に書いてあるから払え、と。二枚舌、信用失墜行為だ。12月に有楽町で県の行事がある。知事に、どうしてこんなことをするのか聞いてみたい」と語る。

 県の提訴対象になっているいわき市からの避難者、Aさん。江東区東雲(しののめ)の国家公務員宿舎に暮らす。「無償提供打ち切りのとき、支援団体に障害者手帳があれば特別枠300戸に入れると言われた。しかし、福島県職員からその話はなく『60歳以下単身、資格なし』と。行政に不満が募り、契約にサインしなかった。調停にかけられ、裁判官に私の経済的精神的状態を訴えている。都営住宅にずっと応募するも、今まで8回落ちた。福島県が紹介してきたのは『10u、トイレ外、風呂なし、築60年』の物件。我慢できるかもしれないが、家賃4万円は無理だ」と話し、「県が訴訟をするとは思わなかった。ますます精神状態が悪くなった。裁判ではなくあくまで話し合いで解決してほしい」と求めた。

 裁判に備え、弁護団7人が決まっている。団長に就く井戸謙一弁護士は「追い出しは国連の『国内避難民に関する指導原則』違反。人権理事会での各国の勧告を日本外務省は受け入れると表明したが、それに則った対応を全くしていない」と批判。林治弁護士は「住宅政策の貧困が原発被害者にふりかかってきたのがこの問題だ」と指摘した。

 ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)の武藤類子さん、山形明け渡し訴訟「被告」の武田徹さん、立憲民主党の山崎誠衆院議員、作家の渡辺一枝さん、講談師の神田香織さん、集会呼びかけ人の羽石さん、福島さんが次々にマイクをとり、熱く支援・連帯を表明。熊本さんが「ここで決断したい。『支援団』をつくりましょう。最後まで当事者のみなさんを支える。あなた方は孤立していません」と今後の方針を提起し、村田さんが「迫りくる危機を知らせる『炭鉱のカナリア』を鳴き止ませてはならない」とのアピールを読み上げて集会を締めくくった。

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