2019年11月15日 1600号

【介護サービスの切り捨てNO 尊厳ある暮らしを支える介護保険・高齢者福祉を】

 9月20日、安倍首相を議長とする全世代型社会保障検討会議の第1回会合が行われた。安倍首相は「人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけでなく、子どもたち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、社会保障全般にわたる持続可能な改革を行う」と表明した。その狙いは、少子高齢化が進む中、増え続ける社会保障への国庫支出を削減し、その犠牲を全世代に押し付けることだ。とりわけ高齢者については、年金支給開始年齢を遅らせ、介護保険給付、医療給付を切り下げる。同会議の遠藤委員(社会保障審議会介護保険部会長)は「医療や介護のあるべき姿を示す中で、給付と負担のあり方を考えていく」と語り、会議のターゲットが給付減、負担増にあることを示した。

 ここでは介護保険をめぐる攻撃とどう闘うかを見よう。

要介護1,2 外しへ

 2000年に始まった介護保険制度では、改定のたびに給付削減と自己負担増が行われた。15年の改定では、要支援1、2の人の訪問介護・通所介護が、介護保険から市町村の地域支援事業に移行した。要支援1、2の介護保険制度からの排除だ。これには、介護保険創設の担当部局責任者、堤厚生労働省老健局長(当時)すら「(要支援者を介護保険から外すことは)国家的な詐欺」と発言した。

 大阪府大東市は、「元気な高齢者」を数字上増やすことで介護サービス利用者を減らし、介護保険関連費用を増大させないために、「大東元気でまっせ体操」なる体操を位置づけ、介護保険からの「卒業」を強要している。総合事業移行後、大東市では2割以上が「卒業」したとされる。5人に1人がサービスを打ち切られているのだ。厚労省はこの取り組みを全国に拡大するため、全国各地で大東市の担当者に講演させている。

 社会保障審議会介護保険部会は「介護費用総額も制度創設時から約3倍の11・7兆円になる。制度の持続可能性を高めていくことが重要」と次期改定への答申策定に向けて検討を進めている。検討の柱は、要介護1、2の人の生活援助を介護保険から市町村の地域支援事業に移行、現在は無料であるケアプラン作成費用の有料化―などだ。

 要介護認定を受ける人の割合や1人当たり給付費は地域によって違う。政府は、「保険者機能強化推進交付金」を使って全国平均より高い市町村にペナルティを与え、給付抑制を競わせる。保険あって介護なし≠フ競争などあってはならない。国に追随することなく、市民の尊厳ある生活を保障するために、市町村に独自施策の充実を要求しなければならない。

介護は公的責任で

 現在の介護職員の給与は全職種平均より月額約10万円低い。そのため、介護職員は慢性的に不足している。厚労省の資料では、介護職の平均勤続年数は6・4年、離職者のうち勤続年数3年未満が6割を超えている。

 10月1日から国は介護職員の給与アップのため特定処遇加算を導入したが、条件を満たすことが難しい小規模施設はそもそも加算申請をあきらめている。その原資は介護保険なので利用者負担、保険料値上げにつながる。今でも高額の介護保険料に苦しむ市民、負担を考えサービス利用を控える高齢者への犠牲転嫁は許されない。国費による介護職員への給与補助が必要だ。

 給与問題だけではない。介護や高齢者福祉は本来、保険方式ではなく、公費投入により必要な人すべてに介護保障を行うべきだ。財源はある。数十年にわたって減税と不公平税制の恩恵を受け富を蓄積してきた大企業や富裕層に課税強化し、莫大な軍事費などを削れば、確保できる。

署名で声を突きつける

 来年に迫った介護保険法改定に向け、介護の当事者や市民でつくる「尊厳ある暮らしを守る連絡会」は、「介護サービスの切り捨てを許さず、尊厳ある暮らしを支える介護保険・高齢者福祉を求める署名」を開始した。

 厚労省に対し、この署名が要求する項目は次の通りだ。

1 要介護1、2の方を介護保険から外さず、要支援の方も介護保険に戻すこと。

2 ケアプラン作成費用の有料化を行わないこと。

3 介護サービス利用の2、3割負担を行わず、1割負担に戻すこと。

4 自治体に対し要介護認定の抑制や介護給付費の削減を強要しないこと。

5 65歳以上の障害者の介護保険優先を見直し障害福祉法に基づくサービスを保障すること。

6 介護職給与を10万円引き上げ他職種並みとすること。原資は介護保険でなく国費で保障すること。

7 介護保険財政への国庫負担を倍増し、保険料と利用者負担を引き下げること。

 連絡会は11月11日、ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)が呼びかける中央省庁要請行動に参加し、介護保険改悪を許さない介護現場と市民の声を厚労省に突きつける。

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