2019年11月15日 1600号
【放射線被ばくと甲状腺がん多発の関係を証明/医問研論文を国際医学専門誌が掲載】
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医療問題研究会(医問研)の論文「福島原発事故後の甲状腺がんの検出率と外部被ばく線量の関係」がインターネット医学専門誌『Medicine』(2019年9月第98巻37号)に掲載された。ドイツの生物統計学者H.Sherb氏の多大な指導を受けた。福島の甲状腺がん多発をいち早く証明した岡山大学津田敏秀氏からも貴重なアドバイスをいただいた。
掲載の可否判断を同誌から委託された2人の判定者(査読者という)は「素晴らしい」と評価したが、最初に投稿した雑誌は違った。福島医大の査読者は、自分たちしか持っていない非公開情報を根拠に「拒否すべし」と判定した。その後もいくつかの雑誌から掲載を断られ、原子力村の影響力を思い知らされていた矢先だっただけに、非常に意義深い掲載といえる。
福島での甲状腺がんの多発は、現在もっとも目に見える福島原発事故による放射線被害であり、この多発と被ばくとの関係を証明する端緒となる論文を世界に向けて発信できた意味は大きい。また、何よりもこの論文は、共に闘ってきた避難者をはじめとした多くの方々の力によるものであると確信し、執筆者の一人としてここに概略を紹介させていただく。
論文の背景と目的
2011年3月の福島原発事故から8年が経った。同年10月から始まった18歳以下の甲状腺スクリーニング検査も4巡目を迎え、19年6月までに、少なくとも230名の甲状腺がんが報告されている。国立がんセンターは通常の数十倍と判断している。誰の目にも放射線被ばくによる多発とわかるが、福島県や権威筋からは、スクリーニング検査や過剰診断による見かけ上の多発であるかのような主張が執拗になされている。
我々は、福島県59市町村ごとの甲状腺がん罹患頻度と放射線量の相関関係を調査した。
明らかとなった相関
図1に文科省の測定した福島県1710か所の地上1bの空間線量を示した。図2に空間線量と59市町村別の罹患頻度(検出率)との相関図(回帰線)を示す。検出率の単位「人年」は被ばく期間を考慮したもの。例えば、事故後3年間で1人発見されれば1/10万人×3年=0・33(10万人年)となる。線量が増加するにつれ、がんの検出率が増加する点に注目してほしい。この図から、空間線量毎時1マイクロシーベルトあたり甲状腺がん検出率比が1・555倍に増加するという結果を得た。相関係数は0・99。強い関係性があることを示している。毎時1マイクロシーベルトはほぼ年3_シーベルトに相当する。つまり、1_シーベルトあたり平均約18%増加することになる。
図1
図2(クリックで拡大)
図3には、線量ごとに59市町村を10群に分けた場合のがん検出率と線量との関係を示した。地域を分ける場合、恣意的な分類であってはならない。ここでは機械的に線量順に10群に地域分けしている。この図からも、線量に応じて甲状腺がんが増えているということが一見してわかる。
以上の結果から、福島では甲状腺がんは空間線量の増加とともに増加すること(容量反応関係)が明らかとなった。
図3(クリックで拡大)
避難の根拠を裏付け
この論文の意義は、福島原発事故の場合でも甲状腺がんの多発は、スクリーニング効果説や過剰診断説ではなく、放射線被ばく線量と関係することを量的に示した点にある。
IAEA(国際原子力機関)やUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)などの国際的な原子力推進機関がチェルノブイリ原発事故の時、被ばくと甲状腺がんの関係を認めざるを得なかった大きな理由は、この容量反応関係が立証されたからであった。
その意味でも、医問研論文を国際医学専門誌が掲載したことは、福島からの避難の根拠を裏付けるものとなり、東電の責任追及の力になる。また、福島県や福島医大が、多発と被ばくとの関係についての重大な情報を一般には隠したまま、非科学的なデータ運用や不自然な地域分けでごまかし、甲状腺問題に幕引きを図ろうとしている現状に対しても反論の一助となるものと考える。
東電や国に補償を求める運動、福島県や「県民健康調査」検討委員会に対し必要情報の公開を迫る運動、そして避難者、支援者一丸となった健康管理手帳実現運動などへ活用できると考える。
10月30日 医問研 山本英彦 |
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