2019年11月15日 1600号

【どくしょ室/スノーデン・ファイル徹底検証 日本はアメリカの世界監視システムにどう加担してきたか/世界盗聴網の一翼担う日本/小笠原みどり著 毎日新聞社出版 本体1500円+税】

 2017年4月、共謀罪法案の国会審議中というタイミングでNSA(米国家安全保障局)の元契約職員エドワード・スノーデンが提供したNSAの日本関係文書が公開された。だが、日本のメディアで唯一この情報提供を受けたNHKはその重大な意味を伝えず、共謀罪とのかかわりも一切報じなかった。その前年、スノーデン本人にインタビューしていた筆者は、こうしたメディア状況に危機感を持ち、自らスノーデン・ファイルを徹底検証する。

 本書は、ファイルを通して、世界監視網を強化したい米国と、戦争国家、監視国家づくりを進める日本政府が、協力して違憲・違法の監視活動を強めている全体像を明らかにする。

 ファイルは、日本が米国防総省の諜報機関NSAの世界監視網の拠点であることを暴いた。日本での活動拠点は3か所。スノーデンが勤務していたNSA日本代表部がある米空軍横田基地、米空軍三沢基地、そして沖縄の米海兵隊キャンプ・ハンセンである。

 1995年の日米合意で「全面返還」リストに載った楚辺通信所(通称「象のオリ」)は、当初2000年までに返還予定だったが、実際は2006年まで遅れる。理由は、NSAの諜報施設のキャンプ・ハンセン内への移設工事が大幅に遅れたためであった。

 ファイルでは、移設費用5億ドル(約600億円)を日本が負担し、諜報機能を飛躍的に向上させた新施設を完成させたことを記している。NSAの監視活動は秘密であり、この費用負担も日米の密約だった。

 日米の諜報機関が密接な協力関係にあることをファイルは暴いた。それは1952年のNSA発足から始まっており、都心の米軍施設である六本木へリポート内に防衛省(旧防衛庁)電波部との連絡事務所を設置していた。2007年にアメリカ大使館内に新事務所が開設され、NSA―日本の相互的な協力関係強化とCIA(米中央情報局)など他の諜報機関との連携強化がはかられた。

 第2次安倍政権発足後、日本政府は本格的に諜報活動強化に乗り出す。内閣情報調査室の北村滋情報官(現国家安全保障局長)の主導で新たなサイバー防衛組織の2013年4月までの発足をめざした。同時期に、自衛隊太刀洗通信所(福岡県)に小型アンテナ5基を設置し、NSA本部から技術者が派遣された。その目的は、メールなど非公開情報も検索できるNSAの監視システム「エクスキースコア」を日本側に提供するためであった。スノーデン・ファイルは、これらを余すところなく暴露している。

 監視の対象は一般市民だ。「監視は権力に抗する声を押しつぶす。犯罪防止やテロ対策とは無関係の権力濫用」と訴えるスノーデンに応え、本書は日本社会に警鐘を鳴らしている。(N)
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