2019年11月22日 1601号

【問題は英語民間試験だけか/丸投げでベネッセなどがボロ儲け/教育を売り飛ばす安倍政権】

 「大学入試共通テスト」における英語民間試験の活用が急きょ延期となった。萩生田(はぎうだ)光一文科相の「身の丈」発言をきっかけに、「家庭の経済状況や居住地によって受験機会に格差が生じる」との批判が一気に高まり、政府は方針転換を余儀なくされた。

 政権を揺るがす事態への発展を恐れた政府・自民党からは官僚の失態を強調する声が相次いでいる。「文部科学省事務方の制度設計の詰めの甘さが原因だ」(世耕弘成・自民党参院幹事長)等々。

 だが、これは責任転嫁というものだ。民間試験の導入は安倍政権が取り組む「教育再生」の目玉商品だからである。▽公的部門の民営化による市場の創出▽それに群がる営利企業と政治家の癒着▽「お手盛り」審議会による政策の正当化――毎度おなじみの腐敗の構図が今回の一件からもみてとれる。

財界の要求だった

 そもそも英語民間試験の導入は、教育界ではなく財界から湧いた話だった。2013年4月、経済同友会が“大学の英語入試に民間の英語能力測定試験を大規模に導入する”と提言。6月には同趣旨の「第2期教育振興基本計画」が安倍政権下で閣議決定された。その後、首相の諮問機関である「教育再生会議」の第四次提言(同年12月)、中央教育審議会の答申(14年12月)を経て、文科省が正式に採用を発表した(17年7月)。

 一連の流れを詳しくみると、ビジネスチャンスの拡大を狙う教育産業の暗躍が浮かび上がる。たとえば、文科省が設置した「英語力評価及び入学者選抜における英語の資格・検定試験の活用促進に関する連絡協議会」のメンバーには、民間の英語検定試験業者(ベネッセや英語教育市場に参入した楽天、日本英語検定協会やTOEFL、TOEICなど)がずらりと顔をそろえた。

 民間試験を活用するかどうかを議論する会議に、実施で利益を得る者が多数参加するなんてデタラメもいいところ。当時を知る文科省の幹部は「政府のもとに設置された会議の提案はいわばゴールが決まっている。…すでに政府の方針が決まっていた以上、多少の危うさがあっても守る必要があった」(11/6NHKニュース)と証言する。

政・官・財の癒着

 甘い汁を吸う業者の背後には、手引きをして見返りを得る政治家がいる。文科相兼教育再生担当相として民間試験の導入をリードした下村博文がそうだ。下村の後援会名簿にベネッセの元社長が名を連ねているように、彼とベネッセは蜜月関係にある。

 ベネッセが食い込んでいるのは政治家だけではない。文科省とも太いパイプでつながっており、旧文部省元次官や元中教審会長が同社の関連法人に天下りしている。まさに教育利権をめぐる政・官・財の癒着構造ではないか。

 英語民間試験の導入は延期となったが、入試「改革」の利権構造はまだ温存されている。政府が予定どおり導入するとしている国語と数学の記述式問題では、その採点業務をベネッセの子会社が約61億円で受注した。

 さらに、「高校生のための学びの基礎診断」と称した学力測定試験が民間業者に委託する形で試行実施されている。「教育再生実行会議」の提言では、基礎編と発展編の2つのテストで大学入学選抜を行う方向性が打ち出されていた。基礎編の具体化が「高校生のための学びの基礎診断」というわけだ(発展編は「大学入試共通テスト」)。

 文科省の認定を受けたのは、ベネッセや学研アソシエ、リクルートなど9団体25種類の試験(英語・数学・国語の3教科)。費用は自己負担のこれらの試験を高校生は年間複数回受けることが想定されている。まさに、学校教育を営利企業に売り飛ばす所業と言っても過言ではない。

 問題は英語民間試験だけではない。「教育再生」ならぬ、安倍政権の「教育破壊」自体が問題なのである。

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