2019年11月22日 1601号

【原発賠償群馬訴訟 国の主張を批判する/区域外避難者を加害者扱いする暴論】

 原発賠償群馬訴訟の控訴審(9/17東京高裁)で国側代理人が行なった、自らの加害責任を「自主避難者」に転嫁する卑劣なプレゼンテーションは看過できない。今後、他の原発賠償訴訟でも主張してくると予想されるので、主な3点を取り上げ、批判しておく。

〈1〉自主避難は国土に対する不当な評価

 避難指示区域外からの避難者について2012年1月以降も避難継続の相当性と損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域 (避難指示区域外)での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当である上に、その地域が居住に適さない危険な 区域であるというに等しく、そこに居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない。

 政府は、大多数の住民は避難していないと言う。それは、避難指示区域以外から住民が避難しないように、政府が御用学者やマスコミを使って「安全・安心」論を振りまいて来たからだ。「安全」を信じなかった人でも、全員が避難できたわけではない。仕事の関係、家族の事情、避難に伴う生活不安などから、現地に留まった人も多い。結果として、「居住を継続した大多数の住民が存在」した事実は、今後顕在化するであろう各種の健康被害に対して国が重大な責任を負っていることを意味するのであって、在住の人たちの「心情を害する」ことを理由に避難者の権利を踏みにじることは本末転倒というものだ。避難者が「加害者」呼ばわりされるいわれはない。

 また、「自主避難者」に賠償することは「国土への不当な評価となる」と主張するが、原発事故によって広範囲の土地が汚染されたのは事実だ。「国土への評価」が下がるとしたら、その責任はまさに原発事故を引き起こした東電と国が負うべきものであって、責任転嫁に他ならない。

〈2〉「国の指示区域」以外からの避難は認めない

 年間積算線量20_シーベルトを避難指示等対象区域設定の基準としたのは適切だった。国は11年4月22日に避難指示、計画的避難、緊急時避難準備の指示を行い、これ以外の区域は避難する必要はないことを示した。自主的避難等対象区域からの避難の相当性が認められる場合であって、も原則として11年4月22日までである。

 政府が政策的に避難指示区域を決めた日付をもって、それ以降は避難の相当性がないというのは、全く根拠がない。
 政府は、ICRP(国際放射線防護委員会)07年勧告の「緊急被ばく状況」の参考レベル(年20〜100_シーベルト)を避難基準と決め、それより低い値の地域から避難する必要はないとしたに過ぎない。

 だが年20_シーベルトは放射線業務従事者の被ばく限度と同じであり、チェルノブイリが避難基準とした年5_シーベルトと比べても高過ぎる。そもそも1_シーベルトを超える被ばくを甘受する場合は、それに見合う直接的な便益がなければならない(正当化の原則)。害しか受けない市民に1_シーベルト以上の被ばくを強要することは全く不当である。少なくとも1_シーベルトを超える地域については避難を選択する権利が認められなければならない。

 この欠陥を補おうとしたのが、翌12年6月に成立した子ども被災者支援法だった。同法は、その時点で、20_シーベルト以下だが「一定の基準」以上の地域を支援対象地域とし、避難の選択を含む各種施策を講じると規定している。だが、政府は基本方針で定めるべき「一定の基準」を示すことなく、「福島県中通り及び浜通りの市町村(避難指示区域等を除く。)」を支援対象地域としただけで、計画的避難や避難の選択という権利自体を消し去ったのである。

 避難指示等対象区域以外からの避難を認めないとするのは、子ども被災者支援法の基本理念に違反するのは明白だ。

〈3〉事故は収束 避難不要

 11年12月16日に「冷温停止」が宣言された。これは、原発事故が収束したことを示すものであり、子供や妊婦であるなどの個別事情で4月22日以降も避難継続が認められる場合でも同年12月末までとすべきである。

 政府の「冷温停止宣言」は事故の収束を意味しない。今でも、炉心には外から注水し続けなければならず、ベントに使われた排気塔(老朽化し接合部分が破損している)が台風などで倒壊すれば、高濃度の放射性物質が飛散する。使用済み燃料の保管も万全ではない。

 1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに成立したチェルノブイリ法では、土壌汚染についてセシウム137が18万5千ベクレル/u以上の地域を「放射能汚染地域」と定めている。これ以上の土壌汚染地域は福島県内のみならず、県外にもたくさんある。土壌汚染の影響を懸念して避難を決断した人も多い。土壌汚染は11年末でなくなったわけではなく、今も続いている。

   *  *  *

 このような国の居直りを許さず、国の加害責任と被害者への賠償・各種施策の実施を求めていかねばならない。

(クリックで拡大)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS