2019年11月22日 1601号

【どくしょ室/ルポ トランプ王国2―ラストベルト再訪/金成隆一著 岩波新書 本体940円+税/市民の意識に確かな変化】

 著者は前著『トランプ王国』で、大統領選直後の米国を取材しトランプ政権を誕生させた米市民の意識を探った。本書は、続編として政権2年目の2018年中間選挙を前後して市民の意識に変化があるのか、再び取材した報告だ。

 訪れた地域は、伝統的に民主党の地盤だったが大統領選でトランプが制した「ラストベルト(錆びついた地域)」。拮抗する「郊外」や超保守とされる「深南部」にも足をのばす。

 就任2年で労働者、市民の見方は変わったのか。今回の取材でも、「トランプはよくやっている」という強固な支持層は確かに存在する。「置き去りにされた人々」の中に「米国を再び偉大にする」とのトランプの物語≠ェ入り、民主党―エリート層の姿勢や訴えが支持されなかった状況が読み取れる。

 だが一方で、トランプ政権下で工場閉鎖が進み富裕層のみが優遇される現実、自国中心主義、排外主義に嫌気がさす人々が共和党員にも広がっている。富裕層の利益の代弁者としての民主党ではない明確な対案が必要だった。中間選挙結果はそうした流れを示した。

 労働者、市民は新たな選択をした。ニューヨーク州で下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)はその象徴だ。「ヒスパニック」「女性」「20代」という政界マイノリティーだが、民主党内4番目の大幹部を予備選で破り、本選でも当選した。

 AOCは支持者に向かって言う。「戸別訪問が重要です。ドア越しに向き合うことで生活者の声を知る。人々がドアを怖がって開けようとしないことから、私は移民税関捜査局(ICE、移民取り締まり機関)が問題だと確信した。ICEは廃止すべきだ」。貧困層や若者のための諸政策を掲げ支持を得た。本書は、戸別訪問に向かう多くの支援者らの思いを紹介する。

 AOC当選に重要な役割を果たしたのがDSA(アメリカ民主主義的社会主義者、本書では「民主的な社会主義者」)だ。DSAのニューヨーク支部長は「2015年まで目立った活動はなかった。トランプ当選の危機感でメンバーが増えた。AOCの要請を受け、DSAは陣営の戸別訪問の約20%を担い、全米4万5千人がこの選挙区の電話作戦に参加し寄付をした」と語る。選挙後DSAは「アメリカの社会主義の復活を示した」と声明を出した。

 本書の最後で、DSAの元共同議長バーバラ・エーレンライクは「今の経済の仕組みがおかしいのです。あまりに多くの人々が貧困層に陥り、ほんの一握りが超富裕層になっている。これを直すことはみんなの責任です」と語る。変革への社会主義的対案が展望であることが垣間見える。

 本書は、一般メディアではほとんど伝えられないDSAの姿を伝える貴重な一冊である。    (N)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS