2019年11月22日 1601号

【安保法制違憲訴訟 司法の責任放棄する忖度判決/東京地裁/「苦悩が見られない」「きわめておそまつ」】

 2015年9月に成立が強行された安全保障関連法(戦争法)は憲法違反だとして市民らが国に損害賠償を求めた訴訟で東京地裁は11月7日、同法の違憲性をめぐって何の判断も示さず原告の請求を全面的に退ける不当判決を言い渡した。

 判決読み上げはわずか十数秒。法廷に「人でなし」「税金泥棒」「理由ぐらい言え」と怒号が飛び交う。報告集会で黒岩哲彦弁護士は「107ページの判決文の半分以上が原告や弁護団の名簿。残りの大半も双方の主張の整理で、裁判所の『判断』は10ページしかない。きわめておそまつ」と切って捨てた。

 原告側が請求の根拠としていたのは「平和的生存権」「人格権」「憲法改正・決定権」。これらについて判決は「平和とは抽象的概念。平和を確保する手段は、変化する国際情勢に応じて多岐多様にわたり、特定できない。個々人に平和的生存権という具体的権利・利益が保障されているとはいえない」「戦争やテロ攻撃のおそれが切迫し、原告の生命・身体の安全が侵害される具体的な危険が発生したとは認めがたい」「原告の精神的苦痛は、原告と憲法解釈を共有する国民一般に生じ得る公憤ないし義憤でしかない」と全否定する。

 内田雅敏弁護士は「元裁判官の弁護士が『法律の字面を追っただけ。裁判所の苦悩が見られない』と。まさにその通り」と評し、「平和は決して抽象的概念ではない。憲法に『政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し』とあるが、判決は一切引用していない。『安全保障の概念は多様』も、集団的自衛権行使容認を閣議決定した際に言っていたこと。安倍政権を忖度した判決だ」と断じた。

 前橋地裁や横浜地裁の同様の訴訟では専門家証人が採用され、宮ア礼壹元内閣法制局長官が「集団的自衛権を行使してはならないことは長年の一貫した政府解釈」と証言するなど国を追いつめている。弁護団を率いる寺井一弘弁護士は「真正面から原告の訴えを受けとめる流れも確実に生まれつつある。闘いはまさにこれから」と檄を飛ばした。
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