2019年11月29日 1602号

【MDS集会講演要旨/民主主義的社会主義の展望を持ち 安倍内閣を打倒しよう】

 11月17日、東京でMDS(民主主義的社会主義運動)集会が開かれた。MDS山川よしやす書記長の基調講演要旨を掲載する。(まとめは編集部)

萩生田発言は安倍政権の思想的本質を明確に示した

 萩生田光一文科大臣は経済格差をもたらす英語民間試験について「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」と答えた。当事者の高校生たちは「入試がそんなに不公平な制度だったら希望が持てない」と一斉に反発。「初年度は精度向上期間」との萩生田発言には「実験台にしないで」「経済状況による教育格差を助長することになるのはわかっていってるんだよね」とツイートした。そして高校生たちは2週間で4万2千名もの反対署名を集めた。

 全国高等学校長会も「公正、公平性が依然として担保されていない」として新制度導入の延期と見直しを求めていた。 英語民間試験は安倍が立ち上げた教育再生実行会議が20年度入試からの実施を決めた。この試験実施には英語民間試験実施団体が深く関与しており、政権に人事権を握られている文科省は唯々諾々(いいだくだく)と従った。これは教育産業に市場を提供するものである。民間企業が試験を実施すれば受験生の機会均等など考慮されず、利益が最優先される。英語民間試験の受験料は最高2万5850円もかかる。遠距離の場合交通費も宿泊料も必要だ。憲法14条(法の下の平等)、教育基本法4条(教育権の保障)違反である。民営化を推進し格差拡大を当然とみる新自由主義に凝りかたまっている輩(やから)だからできることだ。

グローバル資本主義による軍拡、改憲、社会保障切り捨て

 安倍政権は13年の施政方針演説、「世界で企業が一番活動しやすい国をつくる」以来、徹頭徹尾グローバル資本の利益拡大を実行してきた。

 その結果、大企業の利益は今や12年の1・6倍となり、内部留保は304兆円から18年の463兆円まで1・5倍となった。株価も12年12月の1万395円から19年10月末の2万2927円と2・2倍になった。保有株1000億円以上の超大株主の数は12年12人(総額3・5兆円)から18年の58人(同17・6兆円)まで増加した。他方で労働者の実質賃金は減り続けている。これは国際的にみても異常で、他国の実質賃金は増加している。また社会保障は大きく削減された(図表1)。市民・労働者の生活は明らかに悪化している。



 安倍政権の労働政策は、非正規労働を増やすだけでなく正社員にも解雇規制緩和、限定正社員、残業代ゼロの労働法破壊を続けてきた。現在も「働き方改革」と称して教員への変形労働時間制を導入し、残業代を支払わず、繁忙期には10時間/日まで働かせようとしている。社会保障は生活保護費の削減、年金の削減、医療保険料・介護保険料の引き上げなどを強行してきた。

 安倍政権はグローバル資本に高い利潤を保障することを自らの任務とする。膨れ上がった資本に今まで以上の利益を与えねばならない。資本は常に利潤を要求し、増殖できなければ資本でなくなる。

 そのためグローバル資本に市場が提供された。賃金抑制、社会保障削減で、個人消費が抑制されるため、膨張する資本にとって市場が小さすぎる。そこで公共団体の業務を資本に渡す。これが民営化・民間委託だ。図書館、美術館、会館、窓口業務が民間委託され、派遣などの非正規労働者を使う。自治体を実質的に解体しその運営を資本にゆだねる構想(スーパーシティ構想)まである。水道民営化も18年水道法改定で運営権を民間に売却する方針を進めている。

 大規模事業もグローバル資本への市場提供である。オリンピック、万博、カジノ・IR、リニア、新幹線はグローバル資本に大市場を提供する。

 膨れ上がった資本は全世界に投資先を求め、18年末で全世界に1兆6458億ドル(約177兆円)を投資している。この投資を守り、発展させるために軍事力を必要とする。いつでもどこででも軍事力行使≠ヘ必須だ。そのための集団的自衛権容認の憲法解釈変更、戦争法制定であり、辺野古新基地建設、南西諸島への自衛隊配備だ。

 まさに安倍政権はグローバル資本と資本家のための政権であり、基本的人権無視の反民主主義政権である。

医療、介護、教育無償化と基本年金創設、消費税廃止

 安倍政権のこのような政策は当然にも格差を拡大した。しかし、内閣支持率は下がらず、在任期間は憲政史上最長となる。多くの市民は変革不可能と選挙を棄権するか、安倍や日本維新の会の政策にすがっているからだ。

 これに対し根本的変革方向を掲げて訴え、市民の意識を変革すべきである。

 いまアメリカでは大統領選挙に向けた闘いが展開されている。バーニー・サンダースは民主主義的社会主義者として、メディケア・フォー・オールなどの根本的変革政策を出し支持を集めており、18歳〜29歳までの青年層では資本主義に肯定的な見方が45%、社会主義に肯定的な見方が51%という世論調査結果(米ギャラップ調査)が出ている。

 安倍の根底にあるのは基本的人権否定、不平等肯定の反民主主義=新自由主義だ。われわれは民主主義的社会主義で対抗し、まず平等を求める。

 国際NGOのオックスファムによれば、世界の26人の富豪が持つ資産が全世界人口の所得の低い半分38億人の資産と等しい。1%にも満たない層が全世界の資産の半分近くを所有しているのである(図表2)。こうした極端な格差は日本においても同様に進行している。上位40人の資産合計が12年には7兆6605億円だったが、19年には18兆6340億円にまで膨れ上がっている(フォーブス・ジャパン)。それを推進してきたのが安倍政権である。



 このような格差拡大、新自由主義の安倍政権に対し、基本的人権を守り平等を実現するために、憲法25条に基づく健康で文化的な最低限の生活をすべての人々に保障する。

 そのために医療、介護、教育を完全無償化し、年金を少なくとも最低限の生活を保障する年金として税金で賄う。社会保障での保険システムは給付が保険の範囲に制限され、絶えず抑制と削減にさらされる。この打破には税による社会保障に転換するしかない。

 安倍政権の高等教育無償化は、低所得者の教育費負担を免除したものに過ぎず教育権を保障するものではない。所得に関係なくすべての教育費を無償化する。また奨学金の返済を免除し、低賃金、不安定雇用で苦しむ青年層を救う。非正規労働をなくし最低賃金を1500円以上とする。解雇規制を強化し、雇用を保障する。消費税は廃止する。

1%≠ェ奪った富を市民、労働者の手に奪い返す

 財源は、グローバル資本、資本家、高額所得者への課税強化による。「不公平な税制をただす会」の試算では38兆円が調達できる。

 日本では個人の株式譲渡・配当益は分離課税を選択でき税率は20%だ。そのため年収1億円以上の層の所得税負担率が軽い。この金持ち優遇は即刻改めねばならない。また法人税では様々な優遇措置のために税負担が低い。特に持ち株会社は受取配当益金不算入のために税負担が著しく軽い(図表3)。税負担能力がある大企業に内部留保を吐き出させなければならない。



 サンダースが政策実現のためにあげた税がある。富豪に対する富裕税≠ニ金融取引税の創設だ。金融取引税は、株式の売買に0・5%、債券に0・1%、デリバティブ(通貨、債券、株式などから派生した取引)に0・005%課税する。同じ税率でも、かなりの税収が見込める。

 市民生活を改善し、安心して暮らすだけの富はある。問題は1%がその富を奪っていることだ。課税の適正化はグローバル資本と富裕層の富を労働者、市民に奪い返す手段である。さらに大規模事業中止、軍事費削減で大きく財源調達はできる。

 新自由主義イデオロギーと対決し、平等、基本的人権擁護の民主主義を社会の原理としなければならない。

 さらに民営化を阻止し、公的部門を拡大していかなければならない。ローカル線は廃止ではなく再国有化・公有化し、市民の生活を守る。郵政も同様だ。全国一律郵便制度を守るために再度国有化しなければならない。

 最終的に、生産手段の社会的所有で人権破壊の根源であるグローバル資本そのものををなくす。これが民主主義的社会主義だ。

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