2019年11月29日 1602号

【コラム見・聞・感/萩生田よ、15の春を知っているか】

 「15の春」という言葉が北海道にあるのをみなさんはご存じだろうか。一般的には単なる高校受験合格を意味するに過ぎないが、北海道でこの言葉は特別な意味を持つ。

 札幌圏以外の地方部では、公共交通機関は実態として崩壊し、本州以上に急激なスピードで学校の統廃合も進んでいる。50km圏内に高校が1校などという地域も珍しくなく、高校は誰もが自宅から通えるものではなくなっている。

 多くの子どもたちが15の春をきっかけに親元を離れ、寮や下宿での共同生活となる。多感な思春期に濃密な関係で過ごす中から生涯の友人が得られることもあり、早い段階で自立心が養われるメリットもないわけではない。

 「内地」では多くの高校生は自宅から通学し、地元大学から地元企業に就職、出身地で一生を過ごす人も多い。一生地元にとどまり、地元経済を支え続けるこうした人びとを原田曜平は「マイルドヤンキー」と名付け、その経済効果を研究している。だが、北海道では15の春で地元を離れた高校生がそのまま都会で就職し地元には戻ってこない。「マイルドヤンキー経済」の発生基盤自体が失われている。北海道が本州以上の速度で衰退しているゆえんである。

 こうした事態を生み出したのは国鉄分割民営化だ。30年前、全国で83路線が国鉄から第三セクター鉄道やバスに転換されたが、実にその半分が北海道だった。道内出身の江崎孝参院議員(立憲)は「民営化はともかく、国鉄を分割していなければ15の春問題が北海道に集中して起きることはなかった」と言い切る。本州でも地方衰退は加速度的に進行する。15の春は、10年後の日本全国の姿でもある。

 大学入試をめぐって「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と安倍政権の「本音」を漏らした萩生田光一文科相の発言に強い批判が集まる。だが試験の内容以前に、北海道の地方部の高校生は、家族と一緒に生活しながら通学するという当たり前の基本的人権すら奪われている。その状態が30年続き、15の春の下で育った世代が親になった。そのせいか、最近はそれが道外と比べて不平等だという感覚すら失われてきている。萩生田文科相は北海道のこうした実態をどう考えるのか。

 道外では学生の地元志向が強まり、東大合格者に占める首都圏出身者の割合は年々上昇、今は4割近くに達する。高級官僚は東大出身者が多いから、地方の実態をまったく知らない人が地方政策に携わっていることになる。こんな状態で地方活性化などできるわけがない。

      (水樹平和)
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