2019年12月06日 1603号

【未来への責任(287)97年の和解は今も生きている】

 昨年の韓国・大法院判決から10月30日で1年がたった。しかし日本製鉄は判決を未だに履行していない。

 韓国では原告・弁護士・支援団体による記者会見がもたれ、唯一の生存者原告である李春植(イチュンシク)さんは「1年たって言いたいことはたくさんあるが言葉にならない」と涙ぐんだ。原告団は、国連人権理事会に解決を求める陳情書を提出したことを明らかにし、「『慰安婦』問題のように国際社会に訴えていく」と発表した。

 日本のマスコミはどういうわけか、確定判決を履行する法的義務が日本製鉄にあることには一切触れない。「現金化されることはあってはならない。日韓関係はさらに深刻な状態になる」(茂木外相)という安倍政権のコメントを垂れ流し、日本こそ被害者と煽るばかりだ。原告らは「安倍政権は被告企業に圧力を加えて判決の履行を妨げている」と批判した。政府が圧力をかけているとすれば、それこそ「国際法違反」ではないだろうか。

 そうした中で、10月31日付朝日新聞に掲載された唐津恵一東京大学大学院教授のコメントは注目に値する。教授は新日鐵(当時)の国内法規グループリーダーとして、1997年9月の和解解決の会社側の窓口だった。遺骨調査について、教授は釜石での独自調査の先頭に立ち、その様子は1996年8月放映のNHKスペシャルでも取り上げられた。その後会社は、遺骨が返還されていない事実を受け止め、原告と裁判外で和解。自ら遺族を招待して釜石で慰霊祭を行い、慰霊金として1人当たり200万円を支払うなどした。

 唐津教授は次のように語っている。「遺骨が返還できない点は人道的な対応が必要だと考え、和解を選びました」「事前に国に報告したり国から働きかけを受けたりした記憶はありません」「一般論で言えば企業は和解する道を残しておくべきです。和解が経営判断として合理的と思える場合があるからです」「協定は国と国との取り決めで、企業と個人のやりとりは縛っていません。被告企業の対応次第で原告が態度を軟化させることはあり得ます。戦時中に徴用工が日本企業のために働かせた事実を謙虚に受け止める姿勢は、国際社会での企業イメージの向上にもつながるのではないでしょうか」(前掲記事)

 別のインタビューでもこう語っている。「日本が韓国を植民地化したがゆえに、朝鮮半島の人は『日本人』となりました。日本が始めた戦争でその方々も他の日本人同様、大変な目に遭わせてしまった。日本人として常に忘れてはいけない事実です。そうした歴史に対する朝鮮半島の人の恨みや怒りが残っているため、訴訟がなくならないのであれば、その恨みや怒りを消すことを考えなければいけません。そのためには、互いに史実を正確に理解し、真摯に話し合うことが大事だと思います」(9月29日付「しんぶん赤旗」日曜版)。

 唐津教授のメッセージを読んで、1997年の和解は今も生きていると思った。企業が決断すれば解決できる。安倍政権にそれを妨害することはできないのだ。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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