2019年12月06日 1603号

【どくしょ室/東京五輪がもたらす危険 いまそこにある放射能と健康被害/東京五輪の危険を訴える市民の会 編著 緑風出版 本体1800円+税/被ばくの危険性を緊急警告】

 マラソン、競歩の札幌開催問題でも大きく揺れた東京五輪だが、問題は暑さだけではない。海外では、放射能被ばくを危惧する声が広がり始めている。そんな中、この『東京五輪がもたらす危険』は出版された。

 本書の目的は、福島や東京は「安全だ」という日本政府の宣伝はウソであること、現実に健康被害が生じており福島ばかりか首都圏などへの滞在には被ばくリスクがあること、「復興五輪」の名で被災者の切り捨てが進行していることを広く明らかにし、日本政府には東京五輪の開催中止を、各国政府には選手団参加の再検討を求めることにある。

 本書の特徴の一つは、多彩な執筆陣にある。科学者、医師、弁護士、元外交官、議員、市民運動家、原発事故避難者などがさまざまな角度から東京五輪の危険性を論じている。

 第1部では、これまでに東京での五輪開催の危険を警告してきた人たちの書簡や声明、ドイツや米国での東京五輪反対の動きが紹介される。

 著名な反原発活動家アーニー・ガンダ―センの調査によると、野球とソフトボールの会場となる福島あずま球場の土壌汚染は「米国の土壌の3千倍の放射能であった」という。矢ヶ崎克馬・琉球大名誉教授は、事故以来全国で28万人の本来あってはならない過剰死≠ェ生じていることを示す。村田光平・元駐スイス大使は、「今、日本がすべきことは、東京オリンピックを返上し、福島原発事故の解決に最大限の力を注ぐことです」と語っている。

 第2部では、放射能放出量を推計すると東京での五輪開催はネバダ核実験場の周辺で開催するに等しいこと、各地で見つかっている不溶性放射性微粒子が特に危険であること、政府が「健康被害はない」とする根拠にしている国連科学委員会(UNSCEAR)報告は信用できないこと、東京の水道水は政府が決めた基準以下とはいえ放射性セシウムに汚染されていることなどが明らかにされる。

 選手村では福島県を含む被災3県の食材を優先的に提供することとされているが、政府の定める「基準値」を下回る1日数ベクレルでも継続して摂取すれば体内に蓄積されること、事故後に複合性先天性心疾患が増加していることを例に、警鐘が鳴らされている。

 第3部では、原発事故以来広範に見られるようになった「能力減退症」について、また、がん、白血病の多発や子どもの精神発達への影響について検討される。福島や東京からの避難者も、自ら体験した被ばく影響について語っている。

 本書で明らかにされる事実は東京五輪だけに関わるのではない。自らや家族の健康を守るために、首都圏はもちろん全国の人びとが共有すべきものだ。執拗な「安全キャンペーン」を許さず、声を上げ続け広げることが今、必要だ。(U)
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