2019年12月13日 1604号

【みるよむ(538) 2019年11月30日配信 イラク平和テレビ局in Japan/イラクのサッカー大会に介入するイスラム聖職者】

 イラクではイスラム聖職者があらゆる場面で市民生活に介入し支配を強めている。2019年7月、サナテレビは、サッカーの西アジア大会への介入について市民にインタビューした。

 番組の最初、コメンテーターがイスラム聖職者のスポーツ介入を報告する。西アジアサッカー選手権の開会式で女性がベールを着けずにイラクの国歌を演奏したことに、聖職者が「スタジアムを閉鎖して選手権全体を中止しろ。イラクサッカー連盟(IFF)を訴追しろ」と要求したという。

 イラク国歌は、作詞が高名なパレスチナ人詩人、イブラヒム・トゥーカンで、1930年代後半にパレスチナへのユダヤ人入植に抵抗して歌われた歴史を持つ。かつてのパレスチナ国歌であり、現在もパレスチナ、シリア、アルジェリアなどで第二の国歌とされる。

 もちろん、どこの国の国歌も国威発揚や民族排外主義に利用される危険性をはらんでいるので注意しなければならないが、イラクの国歌には少なくとも日本の「君が代」のような権力者への賛美は全くない。

 市民はスポーツに対するあからさまな介入に「どこが不適切な行為なのでしょうか!」と憤りの声を上げる。権力者はシーア派もスンニ派も一緒になって、イラクサッカー協会(IFA)がイスラム教の聖地のあるカルバラ市で大会開催を許可したことにまで難癖をつける。スタジアムは聖地から10`も離れているにもかかわらずである。

抗議の声上げる市民

 カルバラの市民は「聖職者よ、あなたたちにはスタジアムに介入する権利などない…恥を知りなさい」と抗議する。実際の試合はイラクチームがサウジアラビアチームに勝ち、「国の南の端から北の端までイラクを一つにした」とその時の喜びを語っている。

 別の市民も「カルバラの市民がイスラム聖職者の行為を『民主主義と人間の自由に反している』として公然と拒否するのを見聞きした」と語る。そう、イラク市民は民主主義と自由を決して手放さない。

 インタビューはサッカー試合への弾圧についてだが、アブドルマハディ政権は、生活破壊と自由抑圧に抗議する連日のデモの前に11月29日、退陣表明せざるをえなかった。市民の怒りや思いはインタビューからも伝わってくる。自由と民主主義、生活を守るために闘うイラク市民に連帯したい。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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