2019年12月13日 1604号

【無償化にほど遠い大学等修学支援法 富裕層・大企業への課税強化で高等教育の完全無償化を】

「無償化」宣伝のウソ

 法案段階から、政府・メディアが「高等教育無償化」と言ってきた「大学等における修学の支援に関する法律(支援法)」(5/9成立)。「無償化」と宣伝しながら、法律に「無償化」の言葉は一つもなく、内実は全く違う。

 衆議院での附帯決議では、わざわざその第1で「『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』における『無償教育の漸進的な導入』(13条)の実現に向け、政府は教育費の負担軽減策に取り組むこと」と明記された。これは、法そのものが国際人権規約の定める高等教育無償化の趣旨に沿っていないことを改めて決議したことを意味する。「無償化」とはほど遠い支援法が「高等教育無償化法」と報道され、支援法の本質は覆い隠されてしまった。

支援法による分断

 支援法第1条(目的)にはこうある。「真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等の修学支援を行い、経済的負担を軽減することにより、我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与する」

 つまり、あくまで政府にとって必要な「人材育成」と「少子化対策」のためであり、権利としての無償化ではない。「就学支援」さえさまざまに制約されたものとなっている。

 重大なのは、支援法が施行されることで分断がさらに広がりかねない点である。

 第一に、支援法は、極めて限定的な経済的要件を支援対象に課しており、授業料減免や給付型奨学金を受けられる学生が限定されている。全額免除となるのは住民税非課税世帯のみで、年収380万円以上(4人家族)の低・中位所得層への支援がない。

 第二に、各国立大学が実施してきた減免措置の対象には年収380万円以上の世帯も含まれていたが、支援法の施行によって、これまで減免措置を受けていた学生が新しい減免制度の対象外になる。試算では、国公立大学で1・1万人、私立大学で23万人にも上るとされている。

 第三に、支援の対象となる学校に「機関要件」の名で条件が定められ、低所得世帯の学生が比較的多い専門学校で支援対象となったのは全体の62%にとどまっている。

財源消費税は誤り

 そして、何より問題なのが、この支援のための財源が逆進性の強い消費税(10%増税時の増税分)と決められていることである。安倍首相は「本当に困っている人に支援を」と述べるが、消費税負担率の高い低所得層全体にとっては負担が増すことに変わりはない。困っている人に負担させた税を所得区分によって分断して配分する$ュ策は困難な層をかえって拡大させていくだけだ。

 支援の対象から外れる380万円以上の低・中位所得世帯は、消費税の負担増だけがのしかかる。現在でも、年収400万円以上600万円未満世帯の学生の4年制大学進学率は1000万円超世帯の7割(財政制度等審議会配布資料)にとどまっていることをみれば明らかである。

奨学金債務は帳消しを

 日本は、教育費の公的支出(対GDP比)が2019年もOECD(経済協力開発機構)加盟国中最下位だ。政府はもちろん、「教育費負担は家庭の自己責任」とする考えも根強く残っている。教育費の公的支出をOECD加盟国平均水準に引き上げていくことは、中央教育審議会でさえ目標としている。7兆円規模の予算で実現できる。



 「高等教育無償化」に限って見てみよう。高等教育機関全体の学費負担年間総額は約4兆円。主な内訳は、貸与型奨学金の年間総額約1兆円+国立大学86校の年間学生納付金総額約3400億円+私立大学約600校の授業料等年間総額約2兆6320億円(文部科学省「我が国の教育行財政について」ほか)だ。富裕層・超富裕層の金融資産299兆円(2017年度、野村総合研究所)のわずか1・3%に過ぎない。

 無償化政策を進める上で欠かせないのが、「奨学金」の名の学資ローン返済困難者への救済制度の充実だ。とりわけ、「就職氷河期世代」などと呼ばれるほど困難な状態の層に対し、「債務帳消し」を含めた「奨学金」返済負担の抜本的軽減策が必要だ。

 そのための財源は、まず、富裕層や莫大な利益を上げているグローバル企業への課税強化である。不公平税制をただし、消費増税分と引き換えに軽減されてきた法人税、所得税等を本来の「応能負担」税制に戻すことである。高等教育の完全無償化は、富裕層・大企業への課税強化によって十分実現可能となる。

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