2019年12月13日 1604号

【桜を見る会と安倍のウソ/私物化、隠ぺい―政権の腐敗を凝縮/ウソつきが総理でいることの危機】

 「桜を見る会」問題で炎上中の安倍政権。火消しを狙う安倍応援団は「ほかに大事な問題があるのに国会を空転させていいのか」と言い出した。論点ずらしにごまかされてはいけない。桜の下には死体が埋まっていると言われるが、「桜を見る会」を掘り起こして見えてきたのは、ウソつきが総理大臣でいるという、この国の危機なのだ。

反社・詐欺師も招待

 疑惑噴出の「桜を見る会」問題。政権の命取りとなりうるスキャンダルが新たに2つ発覚した。

 まずは、反社会的勢力と見られる人物が招待され、菅義偉(すがよしひで)官房長官と2ショット写真を撮っていた一件だ。吉本興業のタレントが振り込め詐欺グループのパーティーに出演し、契約解除などの処分を受けたことは記憶に新しい。よって世間の反応は「芸人は一発アウトなのに政治家はどうなのよ」など、すこぶる厳しいものがある。

 ところが、進退を問われるべき菅官房長官は「結果的に入ったのだろう」と他人事のような態度。あげくのはては「反社会的勢力の定義は一義的に定まっているわけではない」と言い放った。デタラメにもほどがある。政府は2007年6月にまとめた指針の中で、反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義している。当時、総務大臣だった菅が知らないわけがない。

 さらに深刻な事実がある。「桜を見る会」が悪徳業者の勧誘に利用されていたことだ。高齢者を標的にしたマルチ商法で知られるジャパンライフの元会長が2015年の同会に招待され、それが安倍晋三首相の推薦枠だった疑惑が浮上しているのである。

 ジャパンライフは2014年の段階で消費者庁から行政指導を受けていた。そんな会社に安倍首相名の招待状が送られたのだ。同社はこれをチラシに載せ、宣伝材料に使っていた。現職の総理大臣が悪徳業者の“広告塔”になっていたのだから、被害者が憤るのは当然である。

民主主義崩壊の国

 「各界において功績・功労のあった方々」を慰労することを趣旨とする総理主催行事に、なぜ詐欺会社の親玉や犯罪集団が招待されたのか。野党は経緯を明らかにするよう求めているが、政府は「招待者名簿を破棄したため、分からない」と拒んでいる。削除した名簿の電子データも「復元できない」という。

 名簿の保存期間は1年未満なので、会の終了後「遅滞なく廃棄」したというのが内閣府・内閣官房の言い分だ。前例の根拠となる文書をすぐ捨てるなんて役所の常識からして考えられない。事実、他の省庁における同種の名簿の保存期間は3年から10年だ。

 しかも、今年の名簿をシュレッダーにかけたのは、共産党議員が国会質問のために資料を請求した約1時間後のことだった。内閣府は「廃棄担当者は資料請求を知らなかった」と弁明するが、誰が信じるというのか。

 結局、安倍首相らには「森友・加計学園事件のようにすればいい」との思いがあるのだろう。決定的証拠さえ隠してしまえば、野党やメディアがいくら騒ごうが、「知らぬ存ぜぬ」で押し通せるというわけだ。官僚の側も「安倍政権は逃げ切る」と思っているから、報復を恐れ、本当のことは絶対に言わない。

 かくして、この国の政府機関は無法地帯と化した。ウソをついても証拠を隠滅してもお咎(とが)めなし。元経済産業省官僚の古賀茂明が「全てのルールは安倍総理が決める。…日本は、民主主義国家の名に値しない国に成り下がってしまった」(週刊朝日12/6号)と批判するとおりである。

ウソはくり返す

 国の税金を使った公的行事を総理大臣が私物化し、自分の後援会や支持者の接待に使っていた。しかも、その事実を隠すために口からでまかせを連発している―。普通に考えれば、もう詰んでいる。ところが、人びとの不信感は高まっているものの、それが安倍退陣を求める行動に結びついているとは言い難い。政府のウソに慣れっこになってしまったふしさえある。

 コラムニストの小田嶋隆は警鐘を鳴らす。「真におそろしいのは、人前でウソをつき得る人間をリーダーとして頂くことの危険性なのだ。一度ウソをついた人間は、何度でもウソをつく。このことを忘れてはならない」「5千円の出入りについてウソを言った人間は、5兆円の収支についてもウソを言うはずだ。そういう人間が国庫を握るようなことになったら、国民は100兆円のごまかしや私物化に直面することになる」(11/22日経ビジネス電子版)

 小田嶋は「すでに直面しているのかもしれない」とコラムを結んでいる。まさにそのとおりだ。安倍首相は国内農業に壊滅的な打撃を与える日米貿易協定を「日米双方にとってウィンウィン」と欺き、まともな議論を回避して、国会承認をとりつけた。

 「桜を見る会」問題はウソつきが国家権力を握ることの危うさ、すなわちアベノリスクを示している。小さなことではないのだ。   (M)



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