2019年12月13日 1604号

【どくしょ室/潜入ルポ amazon帝国/横田増生著 小学館/本体1700円+税/労働運動敵視と税金逃れ】

 米フォーブス誌「世界富豪ランキング2019」によれば世界一の大富豪はアマゾンの最高経営責任者ジェフ・べゾス。本書は彼が創業したアマゾンの実態とその儲けの手法を暴く。

 アマゾンは1994年、インターネットでの書籍販売を事業化したことから始まる。今や、書籍にとどまらずあらゆるジャンルの生活用品をそろえ、動画、音楽配信にまで進出するIT巨大企業となった。

 巨大な流通センターでは、徹底した労務管理で携帯端末に監視され続け、たとえ労災死亡事故でも平気で隠蔽する。そうした実態が本書前半の著者自身の潜入ルポやヨーロッパの告発者の証言で明らかにされる。

 アマゾンが最も嫌うのは、情報開示、組合活動、そして税金を払うことだ。

 租税回避は徹底している。日本の売り上げは8700億円に上り、法人税は普通100億円以上になるはずだが、納税額は10億8000万円。日本での売り上げの大部分が米国本社の販売だとして、米国で納税していると言うのだ。国税当局が追徴課税しようとしたが政府間交渉で10分の1に圧縮されてしまった。

 米国では、アマゾンは売上税課税をすり抜け、さまざまな還付金やトランプ減税で17年、18年は法人税をまったく払っていない。また、流通センターで働く労働者の1割は生活扶助のための食料割引切符を受け取っていた。一方でアマゾンは、雇用創出と引き換えに州から税制優遇や補助金を手にしている。生活扶助も税金からの支出であり、税金を二重三重に食い物にしているのだ。

 これに声を上げたのが、上院議員のバーニー・サンダースだ。彼は、労働者が十分な給与をもらっていないために生活扶助などを受ける場合、それにかかる税金を雇用企業から徴収する法案を提出するとした。ベゾスはもうけすぎ、労働者に還元すべきだ≠ニいう声の高まりを押さえ切れなくなったアマゾンは、ついに物流センター35万人の時給を11ドルから15ドルに引き上げると発表。巨大企業が屈したのだ。

 こうした変化は、同様の批判が高まっていたイギリスでも起きた。ただ、海外拠点の1つ、日本の時給に変化はない。日本の政治家がほとんど圧力をかけてこなかったことと関係があるのでは、と筆者は指摘する。

 「マーケットプレイス」と呼ばれる取引市場で、出店企業や出版社にはじめは好条件を提示して出品させ、依存を高めさせた上で、規約を一方的に変更してアマゾンの取り分を増やしている。労働者を搾取し、出店者を支配し、安売りと利便性で市場を独占したアマゾン。今度は、便利さのとりこになった消費者から貪欲に利益を吸い上げる日が来るのではないか、巨大企業アマゾンに依存していいのか、と筆者は警鐘を鳴らしている。 (N)
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