2019年12月20日 1605号

【日米貿易協定はグローバル資本のため 生産者・市民無視の農業解体 デジタル軍事同盟強化許すな】

 日米間で「TPP(環太平洋経済連携協定)並み」を目指すとして締結された日米貿易協定。12月4日、参院で自公与党と日本維新の会の賛成で承認された。TPPの時でさえ国会での審議時間は短いと言われながらも130時間だったが、今回は22時間。まともな審議もなく、市民、生産者無視の協定が強行された。

農産物関税大幅引き下げ

 農産物の分野では、オレンジの関税32%が2025年までに完全撤廃される。牛肉は38・5%から2023年には9%に引き下げられる。これまでの貿易交渉では、大幅な関税引き下げには「激変緩和」のため長い移行期間を設けるのが普通だった。3割もの関税引き下げをわずか3〜5年で行う。生産者の被害など一切かえりみない。

 牛肉輸入に関してはセーフガード(緊急輸入制限措置)が引き続き残るが、発動した場合の関税率は従来の50%(WTO協定による上限)から38・5%に引き下げられる。セーフガードを発動してようやくこれまでの関税率に戻せるに過ぎない。

 セーフガード発動基準も大幅に緩和される。現在は対前年比で輸入量が17%増えると発動できるが、これも引き上げられる。現在の水準でも滅多に発動できず実効性に疑問があったセーフガード。さらなる緩和は事実上撤廃と同じだ。牛肉、オレンジは生産者が北海道・四国・九州に多く、地方に大打撃を与える。

GAFAらを徹底優遇

 今回の貿易協定で最も重要なのはIT(情報通信技術)分野だ。国際間でのデータ送信に対し、日米両政府による関税を禁じた。コンピューターソフトウェアや動画、音声などのダウンロード販売に日米両政府が関税を課せない仕組みとなったのだ。

 これが誰を利するかは明らかだ。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる)は現在でさえ世界中の利用者から利益も個人情報も独占しつつある。今回の協定はこれらの巨大デジタル資本を野放しにし、さらなるボロ儲けを保証することになる。もちろん個人情報の収集もやりたい放題だ。

 ソースコードやアルゴリズム(注)情報の開示要求禁止も盛り込まれた。マイクロソフトなど米国ソフトウェア産業はこうした情報を秘密にすることで模倣品の登場を許さず独占的地位を維持してきた。

 このような米国デジタル産業の市場規模は将来、4兆ドル(430兆円)に上るとの報道もある。米国に比べれば立ち遅れているが、日本にも利益を受けるデジタル大資本がある。協定は日米デジタル資本共通の利益だ。

 これら巨大資本に適正に課税し、99%のための政策の財源とすることこそ今最も求められている政策だ。

 デジタル資本に対し、サーバーなどのコンピューター関係設備を現地化(自国内に設置)するよう政府が要求することも禁止となる。巨大匿名掲示板「2ちゃんねる」は米国にサーバーを置くことで日本政府の摘発を免れ、現在につながるヘイトスピーチの横行などを招いた。これではフェイクニュースの拡散やネット上の誹謗中傷を政府が取り締まるのも困難になる(安倍やトランプ自身がフェイクニュース発信源だが)。犯罪捜査等のため政府がサーバーなどの設備を押収するにも、自国内になければ不可能だ。

 日米両政府がデジタル分野中心の貿易協定締結を急いだ背景には、華為技術(ファーウェイ)など中国デジタル資本の台頭がある。今年繰り広げられた米中貿易戦争で、米トランプ政権が華為技術製品締め出しなどの対中経済制裁を加えたのも、米国の軍事情報流出を恐れたからだ。

 これら中国デジタル資本は中国の軍事分野にも深く食い込んでいる。ハイテク化する中国軍に対し、日米両政府が情報漏洩をさせないための「デジタル版日米軍事同盟」強化という点も見逃せない。

民主主義なき強行

 今回の貿易協定は、交渉開始から締結、国会承認まで実質わずか8か月という拙速さだ。米トランプ政権は、米国産農産物の輸出で日本に72億ドル(7800億円)もの市場を開放させたとしている。日本の農産物輸入額の6割にも相当する。こんな重大な事実を市民に知らせないまま、秘密交渉で決め、国会では審議時間も確保せず採決を強行、「決まったのだから従え」とは言語道断だ。

 今回の貿易協定は入口に過ぎない。今後は日米グローバル資本のために金融、保険から医療、労働まで全分野にわたる規制緩和や収奪を可能とする自由*f易協定が待ち受ける。市民、労働者、農家の利益を売り渡し、デジタル軍事同盟強化で日本を戦争の危険にさらす安倍政権をこれ以上延命させてはならない。

(注)ソースコードとは、コンピュータープログラム言語による設計図にあたる。アルゴリズムとは、問題を解決するための方法や手順をさす。

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