2019年12月20日 1605号

【グローバル資本・富裕層への課税強化/投機抑制と市民生活への財源/金融取引税を導入せよ】

 税金は、福祉や教育など公共サービス施策の財源だ。市民が税金を納めるのはそのためであり、「その国の税制こそ、その国の主権者の自律度を測るバロメータ」(三木義一『日本の税金 第3版』)といわれる。税制を通じて公平な負担と公正な分配が行われれば市民の自律(=他の支配ではなく自らの意志で行動すること)も可能となり、不公平で不正な分配ならば格差と貧困が拡大してしまう。

 グローバル資本は、国境を超えた市場で巨額の利益を得ている。しかも、タックスヘイブン(租税回避地)を使って、納めるべき税金を払っていない。

 グローバル資本、富裕層の貪欲なやりたい放題の経済活動を規制する税制を創設すべきだ。

異常な貧富の差

 世界の富の偏在はすさまじい。2年連続で世界一の富豪となったアマゾンCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾスの資産は13190億ドル(約14兆4100億円)にも達している。10億ドル(約1100億円)以上の資産保有者(ビリオネア)は、1987年の140人から2019年には2153人と15倍に膨れ上がった。資産総額を見ると、29倍も増加している。米国では、最も裕福な400人の資産は下位1億5000万人の資産より多い。日本でも、ファーストリテイリング柳井正(資産額2兆7670億円)、ソフトバンク孫正義(2兆6670億円)らを先頭に、富豪たちの資産は膨れ上がっている。

 これほどの富の集中の一方、貧困はより深刻化している。この現状に富裕層への増税を求める声が高まっている。

 米国では民主党の議員が11月7日、年収200万j(約2億2000万円)以上の高額所得者に所得税の税率を10ポイント引き上げる課税強化の法案を提出した。米国の資産家などでつくる団体「愛国的な百万長者」は同日、「米国の格差は抑制が効かなくなっている。より公正な社会にするためにより豊かな人びとがもっと多くの税金を払う必要がある」と法案を歓迎する声明を発表した(11/10しんぶん赤旗)。富裕層ですら認めざるを得ないほど新自由主義の矛盾は激化しているのである。


欧米で導入検討

 いま世界各国で金融取引や国際電子商取引などを対象に課税が検討されている。とりわけ、投機を防ぎ相当な税収が可能となる金融取引税が焦点となりつつある。

 金融取引税とは、株、債券、デリバティブ(先物取引など金融派生商品)などあらゆる金融資産の取引に課税するもので、取引で利益が生じたか否かを問わず、あくまで取引高が対象となる。課税対象の取引を行えば税金を納めなければならない。それは、コンピューター処理による超高速の金融取引には、人間の判断と対応を超え世界経済を危機に陥れるリスクがあるからだ。08年の金融危機(リーマン・ショック)で現実になった。

 米国議会では先にあげたものとは別に、明確に金融取引を対象にした富裕層課税強化策が提案されている。社会主義者と公言するサンダース上院議員は、株取引に0・5%、債券に0・1%、デリバティブに0・005%を課税する法案を5月22日に提出した。これによって2・4兆ドル(約260兆円)の税収が見込まれる。同じくDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)のオカシオコルテス下院議員も「2019ウォール街タックス法」と称する金融取引税法案を提出している。取引された証券価格の0・1%程度あるいはデリバティブ契約支払いの0・1%程度の税率で、10年間で7770億ドル(約84兆円)の財源を生み出せる。

 12月総選挙の英国では、労働党が11月21日に発表したマニフェストに、多国籍企業や上位5%の富裕層への課税強化、そして金融取引税の導入を掲げた。欧州委員会は11年9月、▽安定した金融活動で高リスクの投機抑制▽一般市民に負担を求めず大幅な税収増が可能▽景気対策、開発や気候変動等の地球規模課題への対応資金の必要―などを理由に、金融取引税導入の指令を出した。株と債券の取引に0・1%、デリバティブ取引に0・01%を課す。11か国が導入予定だったが、英国とスウェーデンが反対し、フランスだけで実施された。

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 富裕層とグローバル資本の儲けの多くは金融取引から生まれている。世界のGDP(国内総生産)総額を16%も超える87・9兆ドル(約1京円、2016年)のカネが世界を駆け巡っている(2017年11月4日日経)。取引は実体経済とかけ離れたものになっている。その実質は投機なのだ。これが世界的な経済危機の根本原因であり、金融取引税で規制を強めなければならない。

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