2019年12月20日 1605号

【未来への責任(288)謝罪なき国会議長「解決案」】

 昨年10月30日の韓国大法院判決から1年余が経過した。日本政府は相変わらず韓国に「国際法違反の状態の是正」を言い募るだけで、企業はその政府の後ろに隠れたまま。かくして強制動員被害者の人権は回復しないままにある。怒りを禁じえない。

 このような中、韓国国会議長の文喜相(ムンヒサン)氏が「解決案」を提起した。それはドイツの「記憶・責任・未来」財団をモデルとしたという「財団」構想案だ。その骨格は以下のとおり―

▽「強制動員被害調査及び犠牲者支援特別法」を改正し、「日帝強制動員被害者支援財団」を「記憶人権未来財団」(以下「財団」という)に改組(「格上げ」)

▽「財団」は(1)日韓両国関連企業の自発的寄付金 (2)両国市民の自発的寄付金 (3)「和解治癒財団」の残余金約60億ウォン (4)その他の寄付金・収入金等で構成する(3000億ウォン規模)

▽強制動員被害者への慰謝料・慰労金支給は基金から充当し、運営経費は韓国政府の出資金・補助金で充当

▽判決が確定した被害者に慰謝料が支払われれば、日本企業の賠償責任が「代位返済」されたものと見なす。訴訟を起こしていない被害者は1年6か月以内に支援委員会に申請し、審査に基づき慰謝料を支給する。それに伴い裁判上の和解が成立したものと見なす。申請しない場合は時効で権利消滅する(支給対象は1500人)

 この「財団」構想に対し、「正義記憶連帯」は即座に反対、撤回を要求した。強制動員被害者団体、弁護団等も反対を表明した。反対理由として(1)強制動員の事実、日本政府・企業の責任の認定と謝罪がない、(2)日本企業には自発的寄付金を求めつつ、他方で、「慰謝料」支給を受けた被害者の債権を消滅させるのは、日本政府・企業に「免罪符」を与えるもの等を挙げた。

 文氏は、この「財団」に対し「日本の企業(戦犯企業も)はお金を出す」と言い、「財団」法案の通過前に日韓首脳会談で「過去事に対する日本の謝罪」を引き出すことが必要と語っている。しかし、それが実現する保証はない。これでは被害者側が文氏の「解決案」を受け入れるのは難しい。

 ドイツの「記憶・責任・未来」財団でも、ドイツ政府、企業は強制労働の法的責任を認めたわけではない。「道義的責任」から補償することを決断した。しかし、「財団」発足に当たって、ヨハネ・ラウ大統領(当時)は次のように述べた―「きょう私はドイツの支配下にあって奴隷労働や強制労働を遂行しなければならなかったすべての人々を記憶しつつ、ドイツ民族の名において赦(ゆる)しを乞います」(1999年12月17日)。果して、安倍首相はこのように謝罪するであろうか。

 この文提案について、河村日韓議連幹事長は「解決策はこれだけだ」と言い、安倍首相も「強制執行以前に法整備があれば良い」と語ったと言われる。そうであるなら、自らが事実を認め、謝罪することだ。私たちはそれを迫っていく。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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