2019年12月27日 1606号

【沖縄辺野古新基地 土砂投入から1年/“世論動かし違法工事とめる ”/学者・技術者の知識が市民運動の力に/1級土木施工管理技士 奥間政則さんに聞く】

 沖縄辺野古で新基地建設の土砂投入が始まって1年になる。工事は法令違反を繰り返す杜撰(ずさん)なものだった。その実態を、「土建屋」を自称する奥間政則さんはドローン(小型無人機)による写真や土木工事の経験をもとに告発してきた。ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)主催のスピーキングツアーを終えた奥間さんにその思いを聞いた(12月9日、まとめは編集部)。


工法変更の攻防

 「今日沖縄に帰るとメディアの取材を受けることになっています。辺野古に土砂を投入してから1年。大きく取り上げてほしいと思います」

 焦点の一つは海の汚濁。

 「政府は岩ずり(岩を砕いた砂利)で埋めると言いながら、現場では赤土が入っています」

 工事現場から流出した土砂が周辺の海草藻場に積もり、死滅させる。防衛省との交渉では、現場の汚濁写真や汚濁度を示す数値を突き付け、矛盾を突いた。土木技術者である奥間さんの闘い方だ。

 「汚濁防止膜の手抜き工事をドローン写真で暴きましたが、軟弱地盤対策の砂杭工事でも汚濁が心配されます」

 政府は軟弱地盤上につくる護岸の基礎をサンドコンパクションパイル(SCP)工法(軟弱層に締め固めた砂杭を構築し、地盤強度を上げる工法)で補強する計画を示している。

 「SCP工法は、いったん軟弱地盤につくった砂杭に振動を加えながら杭の直径を拡大します。それを何度も繰り返して砂の柱を構築します。その時、軟弱層もかく乱されて濁りが出ます。政府はその対策として軟弱層の表面に砂のフィルター層をつくり、防止すると言いますが、その砂を投入する際にも汚濁が発生します。傾斜している地形でマヨネーズ状の軟弱層表面に都合よく砂層ができるのか、どれだけの砂が必要となるのか、疑問だらけです」

 海上工事の経験から、次々に問題点が見えてくる。

 「この工法で必要とされる砂杭の長さ60b以上(水面から90b)を施工できる作業船もないとマスコミは報道していますが、油断はできません。カネをかければ、いくらでも改造できます。実際に不動テトラという企業が水面下70bに対応した作業船をリニューアルしたという情報もありますので、国は国費を投じてでも強行してくるでしょう。いずれにしろ政府は年明けにも設計変更を提出する可能性があります。御用学者がお墨付きを与えた工法に県側がしっかり反論できるか問われます」

 工事をめぐる攻防は新たな局面を迎える。

居直りを許さない

 政府は県の判断がどうであれ、押し切れるとたかをくくっている。

 「それまで隠し続けてきた地盤調査の報告書をなぜ18年3月に公表したのか。それは2月の名護市長選で政府側が勝利したからだと思います。同じやり方で知事選も勝てると踏んだから、重大な欠陥を示す調査結果を公表したのではないかと思います」

 政府は14年から16年に行ったボーリング調査や音波探査による地質データを一部黒塗りでやっと公表した。

 「メディアはほとんど報道しませんが、17年に活断層に関する調査を行った多目的作業船『ポセイドン』の調査報告書があります。公開されたとはいえ、活断層につながる部分は分析できないように加工されています」

 活断層の存在を示す重要なデータが隠されている。自主的に辺野古断層の調査に入っている研究者が指摘した。最初に辺野古の活断層を公にした琉球大学名誉教授加藤祐三さんや新潟県の柏崎刈羽原発反対運動で活躍する新潟大学名誉教授立石雅昭さん。奥間さんのまとめた資料が生かされた。埋め立て反対の意見を出したサンゴ研究者の三重大学名誉教授目崎茂和さんを加えた3人のシンポジウム(18年2月、オール沖縄主催)の開催にも奥間さんは尽力した。

 基地建設が世界的にも希少な自然を破壊する。そんな構図をよりクリアにするニュースが10月23日届いた。

 「『ホープスポット(希望の海)』の話はぜひMDS新聞でも伝えてください。辺野古・大浦湾の生物多様性、希少種の存在だけでなく、基地建設で破壊されようとしている危機感が、国内初の指定につながっています」

 国際的な海洋生物学者シルビアアール博士が提唱する「ホープ・スポット」。法的規制があるわけではないが、人類の「希望の海」として市民による保護運動を進める。09年から世界で110か所以上指定されている。日本自然保護協会やジュゴン保護キャンペーンセンターなどが申請し、実現した。基地建設でこの海を破壊していいのか、世界中の市民に問いかけている。

ドローンがつなぐ闘い

 いまや奥間さんの報告に欠かせない存在となったドローン。その出会いは東村高江の米軍ヘリパッド建設反対運動だった。県外の支援者がドローンを持ってきた。その映像は、これまでとは全く違う視点で工事の状況がわかった。これは運動に使えると確信した。

 奥間さんが「森の映画社」とともに「沖縄ドローンプロジェクト」を立ち上げたのは18年1月。工事を熟知した土木技術者が手にしたドローンは、次々に政府の隠している事実を暴いていった。辺野古だけでなく、高江の森のオスプレイ被害、キャンプ・シュワブのヘリパッド増設工事、琉球弧で進む自衛隊基地建設の実態など、軍事化が進む沖縄の現状を捉えていった。

 ドローンにより不正工事が暴かれることに危機感を持った政府は今年6月、改正ドローン規制法を施行。弾圧を始めた。広島県警公安課が11月19日、海上自衛隊呉基地周辺の禁止区域内でドローンの練習をした男性を摘発、書類送検した。

 沖縄にはまだ飛行禁止区域の指定はない。米軍基地と自衛隊基地の扱いを同じにするのか調整が取れないという。今のうちに琉球弧のすべての軍事基地を撮影しようとドキュメンタリー映画『ドローンの眼』(藤本幸久・影山あさ子監督)に結びついた。この作品を見た韓国テレビ(KBS)が沖縄ドローンプロジェクトを取材し、報道した。ドローンが日韓をつないだ。

「あつまれ辺野古」

 基地反対運動での奥間さんの役割は土木の知識を提供するだけではない。市民グループ「あつまれ辺野古」の共同代表でもある。

 奥間さんは仲間とともに「あつまれ辺野古500人行動」を呼びかけた。18年4月23日から28日、辺野古ゲート前に人が溢れ、工事車両を止めた。名護市長選敗北のいやなムードを打ち破る行動だった。本気で基地建設を止めたい仲間が「あつまれ辺野古」の運動を継続した。直近では10月21日から25日、安和で連続5日行動を成功させた。

 自治体の土木職だった北上田毅さんが情報公開で設計書や地質調査データを手に入れ、奥間さんは現場施工者の眼から点検、分析した。現場で起こっている事実との違いを突いた。ウソで固めた政府の鎧(よろい)を一枚一枚剥いでいく。無法状態の工事が明らかになった。

 「私の話を聞いて、基地反対運動に参加する市民も元気が出ると言っています」と語る奥間さん。「土建屋として軍事基地は造らせない」との気概に溢れている。政府の権力、機動隊の弾圧に「勢い」だけでは勝てない。相手のウソを暴き、欠陥を指摘する。そんな攻め方が政府を立ち往生させる。

 技術者の直感と調査船「ポセイドン」の航跡を調査・分析することで地質学者を動かし、断層調査につなげた。反原発運動では、市民が専門知識を獲得し、政府や電力資本と対峙する。沖縄の反基地闘争のそんな側面を北上田さんや奥間さんらが担っている。

 「明日は宮古島に行くことになっています」と奥間さん。ウェブサイトには、奥間さんの講演や行動予定がぎっしり書き込まれている。自らの経験と知識が市民運動と二人三脚で勝利に結びつく。そんな思いが日々の活動を支えている。







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