2019年12月27日 1606号

【アフガニスタン 中村哲医師銃撃死 元凶はグローバル資本の侵略 全占領軍撤退、人権回復こそ必要】

 12月4日、長年にわたりアフガニスタン民衆の支援活動を続けてきた中村哲医師が東部ジャララバードで銃撃され死亡した。事件の根源にはグローバル資本が始めた「対テロ戦争」がある。


アフガン報復戦争

 殺害犯として原理主義のタリバン、「イスラム国」(IS)、軍閥勢力などの名が上がるが、誰であろうと断じて許されない。同時に忘れてならないのは、根本原因が2001年以来のアフガニスタン戦争であることだ。

 2001年、「9・11米同時多発テロ」が起きた。ブッシュ大統領(当時)は、アルカイダの犯行と断定し「報復」の名で「対テロ戦争」に突入した。アフガニスタンのタリバン政権がウサマ・ビン・ラディンらアルカイダをかくまっているとして10月7日、「有志連合」による空爆を開始。タリバン政権を壊滅させた。ブッシュは「自衛のための先制攻撃」と主張し、明らかに国際法が禁じる侵略=戦争犯罪であるにもかかわらず、小泉政権(当時)はただちに支持した。世界の最も豊かな国々が、世界で最も貧しい国の一つアフガニスタンを袋叩きにしたのだ。

 ブッシュ政権は、報復戦争のための戦時体制で愛国者法制定など米国市民の忠誠を手にしようとした。また、中央アジアでの天然ガスをはじめエネルギー産業の権益確保と、軍需産業への利益提供を狙った。戦争は爆弾・ミサイルの「在庫処分」、最新兵器「見本市」となり、今日まで膨大な犠牲者を出し続けた。

傀儡(かいらい)腐敗政権と内戦

 占領軍は2002年、CIA(米中央情報局)協力者でエネルギーコンサルタントを運営していたカルザイを大統領に据え長年政権を担わせた。2014年には、後継にかつて世界銀行に勤めカルザイ政権財務大臣であったガニを大統領とした。米国の傀儡(操り人形)、腐敗政権であることは誰の目にも明らかだった。

 カルザイ、ガニが民衆の支持を得られるはずはなく、「反侵略」の名目でタリバン、ISが復権、各地の軍閥などの内戦と人権抑圧が続く。米軍・政府軍の空爆が事態をさらに泥沼化させ、民間人死者は2018年で過去最大の3804人、今年もそれに匹敵する犠牲が出ている。

 武力で政権を崩壊させて傀儡をつくり、混乱を深刻化するグローバル資本の戦争政策が、現地の支援団体をも危険に陥れている。

 国連によれば、8月までにアフガンで援助関係者が巻き込まれた事件は133件、死亡者27人(12/6朝日)。ガニ政権が中村医師に勲章や名誉市民権を与えたことで「アフガン援助団体 標的 『政府の支援者』と敵視」(同)となった可能性も指摘されている。

「自衛隊派遣は有害無益」

 中村医師が主宰するペシャワール会は現地民衆の大きな信頼を得ていた。井戸を掘り、用水路を引き、干ばつで砂漠化した広大な土地に緑を復活させ、多くの難民が耕作に戻った。現地の人びととともにメンテナンスできる工法を選び、民衆が働き生き延びることを第一にしたからこそ、戦争ではなく平和を強調した。

 中村医師は、占領軍であるISAF(国際治安支援部隊)の兵站(へいたん)を担うために自衛隊が参戦することを一貫して批判した。

 2001年、派兵のためのテロ対策特措法審議時には参考人として「自衛隊派遣は有害無益」と断言。2008年にも参院外交防衛委員会で「『殺しながら助ける』支援というものがありうるのか。干渉せず、生命を尊ぶ協力こそが、対立を和らげ、武力以上の現実的な『安全保障』になる。現地が親日的であった歴史的根拠の一つは、戦後日本が他国の紛争に軍事介入しなかったこと。ISAF参加によって同盟軍と見なされれば、反日感情に火がつき、アフガンで活動をする私たちの命が脅かされるのは必至」と発言している。

 だが、日本政府は対テロ戦争に深くかかわっていった。インド洋での給油支援に加え、腐敗政権にのべ64億ドル(約7000億円)もの「援助」を投入してきた。だが、その援助項目の第1は、治安維持=民衆抑圧なのだ。

 安倍政権は今また米国とイランの緊張激化に乗じて中東海域への派兵をもくろむ。

  *   *   *

 グローバル資本主義の戦争政策は直接・間接に民衆を殺し続け、人類の未来を対立と憎しみに染め上げる。

 トランプ政権はタリバンを政権に招き入れる直接交渉の動きを見せているが、政府と原理主義者らによる人権抑圧は続く。真に平和と安全をもたらすものではない。アフガニスタン民衆が求める、すべての占領軍撤退、人権と民主主義の回復こそが必要だ。

 
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