2019年12月27日 1606号

【民衆の勇気示した10月蜂起 労働者とともに解放の展望を イラク労働者共産党サミール・アディル書記長】

 10月以来のイラク全土の大規模な抗議行動でアブドルマハディ首相は辞任を余儀なくされた。この抗議行動についてイラク『コミュニスト』紙に掲載されたイラク労働者共産党サミール・アディル書記長のインタビュー(要旨)を紹介する。

資本主義の危機の一環

 イラク諸都市を席巻している抗議行動は、全世界的なブルジョアジーの危機とその経済的政治的オルタナティブ(代案)という観点から見なければならない。それはフランスの黄色いベスト運動の再来であり、スーダンやアルジェリア、エクアドル、チリでも、イランやレバノンでも見られた。資本主義体制は労働者階級の獲得物の強奪と貧困・困窮のサイクルの拡大なしに自らを維持することができない。イラクでは、侵攻と占領によって国家が破壊された2003年以来、ブルジョアジーの危機が続き、10月初めからの抗議行動は政治危機を一層深化させた。

 失業と貧困、政治腐敗が10月蜂起≠ノ火をつけた。失業率は40%を超え、人口の3分の1以上が貧困線以下で暮らしている。10月以前にも、失業者が何十もの都市を座り込みとデモで占拠し、大規模な弾圧と対峙していた。

 10月1日にはバグダッド・タハリール広場で平和的なデモが呼びかけられたが、治安部隊と宗派私兵が発砲し、多数のデモ参加者を殺害した。これに激怒した何百万人もの市民が街頭に出て抗議。市民は弾圧と無差別殺戮(さつりく)にもかかわらず、自らの権利のために勇敢な抗議行動を続けた。

 10月蜂起には2つの波があった。最初は10月1〜7日に湧(わ)き起こり、野蛮な弾圧に直面した。2回目は10月25日に始まり、2〜3日後には労働組合が民衆の要求を支持しデモに賛同。バスラなどでは基幹産業の労働者が職場で何十ものデモを組織し、政府による弾圧を糾弾した。ただ、労働者階級の闘いは政権を左右する段階―エジプトやチュニジア、スーダンの革命で起きたようにストライキに立ち上がるまでには至っていない。

 主要生産部門で闘いのリーダーと活動家、労働者のネットワークを築く努力が続いている。これは労働者解放の闘争を強化し、民衆蜂起に効果的に関わるために重要だ。

 この抗議行動には勝利と敗北の可能性が同時に存在する。

 支配者―ブルジョア階級はイラン・イスラム共和国や周辺諸国、米国など最も野蛮な国家体制によってあらゆる面で支援されている。

 蜂起は民衆の勇気と大胆さを示した一方でブルジョア階級とその流儀になお支配されている。イラク民衆はタブーと聖域を壊し世界を奮い立たせたが、抑圧機構に立ち向かう民衆の犠牲にブルジョア勢力諸潮流が応えることはない。

 今回の蜂起には3つの特徴がある。まず最重要な点として「階級性」だ。抗議行動の中心は、権利を奪われた青年失業者や労働者、臨時雇用労働者、教員、女性らで構成されている。2点目は、支配者であるイスラム主義勢力に抵抗し、それから決別していること。3点目は、宗派主義の迷信を打ち破っていることだ。

 しかし、弱点もある。第1に、組織化をせず、統一した指導部が存在しないこと。その要因は2つあって、1つはバース党支配40年間の抑圧と専制を通じてさまざまな組織が一掃され、あらゆる政治的自由が根絶されたこと、もう1つは民衆が諸政党の統治失敗で政党への信頼を失っていることだ。ブルジョアジーは民衆の間に“アンチ組織”の傾向を作り上げてきた。そのため、蜂起には民衆解放をめざす指導部がいない。

抗議行動の潮流と弱点

 抗議行動には3つの潮流がある―(1)バース党を含む民族主義潮流。(2)サドル派やアバディ、イラク共産党に代表される民族主義者の潮流。この2つはともに背後に米国がいる。(3)まだ弱体だが、抗議行動を急進化させ他の潮流の影響から切り離そうとする進歩的なコミュニストの潮流。

 第2の弱点は、労働者階級が抗議行動に完全には参加していないことだ。労働者はとくに石油部門で生産プロセスを止め、ブルジョアジーを麻痺させることができる。労働者階級がそうした形で参加していれば、革命運動の成功に結実し、解放の展望は民衆蜂起を超えて広がっただろう。

 私たちは革命と解放の展望を示し、抗議行動を発展させる努力を払っている。権力と政治的オルタナティブのための闘い、デモが広がる公的な空間での現場リーダーの育成、職場や居住地に労働者市民の委員会を建設する活動だ。これらの政策を反映したニュースも週2〜3回発行している。

 アブドルマハディ政権の退陣は緒戦の勝利だ。だが、民衆の利益となる成果をかちとるには、なお多くの闘いが必要とされる。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS