2020年01月03・10日 1607号

【自衛隊中東派兵は対中国包囲網/経済権益守る派兵体制の強化】

「シーレーン確保」の狙い

 自衛隊の中東派遣が12月27日、閣議決定されようとしている。新たにヘリ搭載型護衛艦1隻を派遣し、アデン湾で海賊対処の任務に就いている哨戒機P3C2機のうち1機を振り向ける方針だ。活動海域はイエメンからオマーンにかけてのアラビア海、その範囲は3千`bに及ぶ。護衛艦の整備・物資補給はアフリカ東部・ジブチ基地が使われる。自衛隊初の海外基地に護衛艦2隻、哨戒機2機がそろうことになる。

 ところが想定する活動海域は、「日本船舶を警護しなければならない状況にはない」ことを政府も認めている。米国主導の有志連合が敵対するイランだが、日本政府は12月20日、ロウハニ大統領を招いて経済協力などの協議を行い、「友好関係」をアピールした。トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱によって作り出した「中東危機」は、米国が復帰すれば解決する。

 では、何のための派遣なのか。政府は「シーレーンの安全確保」を理由にあげる。ホルムズ海峡やアデン湾バブルマンデブ海峡というより、東シナ海からスエズ運河を結ぶシーレーンを念頭においたものだ。それは、中国の進める海の「一帯一路」に重なる。

 日・米・オーストラリア・インド4か国による「インド太平洋構想」は中国包囲網である。日本政府は、その一環として南西諸島の軍事基地化を進めている。インド太平洋をまたぐ「シーレーンの安全確保」やジブチの自衛隊基地もつながっている。

 「最後の市場」と言われるアフリカへの直接投資額は中国がとびぬけている。18年9月、北京で開催された「中国アフリカ協力フォーラム」にはアフリカ54か国中53か国が参加。この場で、600億ドル(約6兆5千億円)の拠出金が提示された。日本が16年のアフリカ開発会議で表明した額の倍だ。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は「中国とアフリカは運命共同体」と演説した。

 軍隊はグローバル資本の経済権益を守るために存在する。経済と軍事は切り離せない。経済でも軍事でも、中国に先を越させるわけにはいかないとの発想が根底にある。自衛隊の「中東派遣」はそのためのものだ。

経済戦争と軍事対抗

 中国の軍備増強は急速に進んでいる。12月17日には初の国産空母を就航させた。さらに原子力空母の建造計画も進めている。建国70年を記念した19年の軍事パレードはこれまでの最大級となった。建国100周年には米国を超える経済規模の実現を目標に、当面「製造強国」入りをめざす「中国製造2025」をスローガンに掲げている。「強軍大国」がもう一つのスローガンだ。軍事力でも勝っていなければ強国とは言えないと考えているのだ。

 米中経済戦争の核心は次世代通信システム5Gをめぐる争いだった。米国防総省が4月に出した報告書は、5Gに関する中国の脅威を率直に記していた。

 5Gは低周波領域(6GHz以下)を使う「サブ・シックス」方式と高周波帯域(24GHz以上)を使う「ミリ波」方式が開発されている。4Gの通信基地局が利用でき、カバーできる範囲が広い「サブ・シックス」が世界の主流になろうとしている。その中心企業が中国のファーウェイだ。

 米国にとって深刻なのは、「サブ・シックス」方式を軍・政府が利用し、「ミリ波」を民生用にしたことだ。軍事利用を優先した結果だが、「サブ・シックス」が主流となり、機器製造を中国企業が独占すれば、米軍の軍事通信ネットワークを維持するには中国からの部品供給に依存しなければならなくなるという。トランプ大統領が19年5月に突然ファーウェイ排除を言い出したのも、国防総省の報告書に従ったものだった。米軍との通信システムを共有する自衛隊も他人事ではない。

「海上警備行動」も含む

 経済覇権の争いは軍事緊張を高めている。戦争国家づくりに邁進する安倍政権は12月20日、またもや過去最大の軍事費を含む20年度予算案を閣議決定した。軍事予算で装備を増強し、中東派兵の閣議決定で切れ目のない派兵体制を整えようというのだ。

 安倍政権はすでに10月18日の国家安全保障会議(NSC)で中東派遣を決めている。防衛省設置法に基づく「調査研究」目的の行動であり防衛相の権限でできるとしていた。今回の閣議決定には、「調査研究」から場合によっては「海上警備行動を発令して対応する。迅速な意思決定に努める」ことが含まれる。海上警備行動では武器使用が可能であり、この閣議決定で事実上「平時」から「戦時」へのハードルはなくなる。

 戦争法を強行成立させた安倍政権は自衛隊の海外派兵を常態化させ、いつでも軍事行動へ移行できる仕組みをつくっているのだ。



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