2020年01月03・10日 1607号

【介護保険改悪 福祉切り捨てに待った/すべての介護労働者賃金月10万円アップへ公費増を】

 「3年を1期」として見直しが行われる介護保険制度。2021ー23年度の第8期事業にむけ、社会保障審議会(厚労相諮問機関)の介護保険部会が、来年の介護保険法改定に向けた検討を進めていた。主な内容は、▽「要介護1、2」の生活援助の介護保険から市町村の地域支援事業への移行▽ケアプラン作成の有料化▽自己負担最低1割の2割化▽3割負担者の所得金額の引き下げなど、給付内容の切り下げ、利用者負担増のオンパレードだった。

 審議委員の中でも改悪に反対の意見が出、市民の強い抗議の声によってこれらの改悪は見送られた(11/27朝日)。

厳しい介護職場

 しかし、厚労省は12月16日、低所得の施設入居者の自己負担を月2万2千円も増やすという負担増案を示した。

 介護職場の状況は悪化するばかりだ。18年度介護労働実態調査(介護労働安全センター)によると、介護事業所の67・2%が人手不足を訴え、89・1%が採用が困難と回答している。「同業他社との人材獲得競争が厳しい」「他業種と比べて労働条件が悪い」などが理由に挙げられている。

 介護職員の低賃金は以前から指摘されている。18年度賃金統計基本調査では、全産業労働者(短時間労働を含まない一般労働者)の平均賃金が月36万6千円なのに対し、ホームヘルパーは26万1千円、福祉施設介護職員は27万5千円。介護職員は全産業平均より月9万円から10万円低い。

 低賃金など労働条件の劣悪さが影響して勤続年数も、全産業の10・7年と比べて6・4年と短い。1年間の離職率は16・2%で離職者の6割が3年以内に辞めている。介護職の養成学校も希望者が大幅に減り、入学者数も2015年度の8884人から19年度の6982人に減少し、定員を大幅に割る状況だ。若者に人気のあった介護職場は過去のものとなった。

使いづらい「加算」制度

 介護現場からの声に押されて、厚労省は19年10月1日から「特定処遇改善加算制度」を創設した。勤続10年以上の介護福祉士(約20万人)の給与を月8万円アップすることを想定した施策だが、看板通りにはなっていない。

 事業所が都道府県に加算申請するには、「勤続10年以上の介護福祉士のうち一人は月8万円以上の賃金改善を行う」等の条件を満たす必要がある。また申請手続きが複雑なため小規模施設などでは申請を見送るところも多い。独立行政法人・福祉医療機構が8月21日から9月6日までに行ったアンケート調査では「10月から加算取得する事業所は76・5%、当面取得予定なしが7・6%」との結果が出ていた。

 実際、大阪府では「所管の事業所の10月加算取得率は施設で73・4%、在宅系全体で61・3%、通所介護施設では58・8%、訪問介護では49・9%」だった。「介護・福祉総がかり行動実行委員会」との交渉の場で明らかにした。

 小規模事業所が多い通所・訪問介護施設で加算制度を利用しにくい実態がわかる。

改善に及ばぬ予算

 今回の加算制度は、約20万人といわれる勤続10年以上の介護福祉士について月8万円の給与改善を前提として、総費用約2千億円を予定している。内訳は、公費負担1千億円(うち国500億円、地方500億円)。残る1千億円は保険料と利用者の自己負担。

 介護職員全体の1割に過ぎない20万人しか対象とせず、国の負担はわずか500億円。賃金の抜本的改善には程遠い。

 16年介護職員数は約183万人、20年には約213万人が必要と厚労省は発表している。訪問介護と通所介護を持つ大阪のある事業所は、勤続10年以上の介護職が4人いる。しかし、10月分の加算認定額は全体で約6万円。1人月8万円とは全くかけ離れている。

 さらに、職場内で処遇改善に格差を付けることが条件。だがこれには、職員分断をもたらし業務に影響を与えかねないと反対の声が広がり「柔軟な運用」「事業所の裁量」を認めざるを得なくなった。

 加算財源の半分は利用者の自己負担と保険料。利用者の顔が身近な小規模事業所ほど加算請求しにくく、負担増は利用抑制につながる。

 高齢化が進む中、介護職員を確保し必要な人に必要な介護支援を保障することは国の責任だ。すべての介護職員に全産業平均の賃金を保障するため月10万円アップできる公費負担を国に求めよう。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS