2020年01月03・10日 1607号

【伊藤詩織さん全面勝訴/被害は「真実」、告発は「公益目的」と認定/それでも安倍応援団は暴言連発】

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが性的暴行を受けたとして山口敬之元TBS記者に損害賠償を求めた裁判で東京地裁は12月18日、伊藤さんの訴えを認める判決を言い渡した。だが、330万円の支払いを命じられた山口元記者及びその取り巻き連中は、その後も伊藤さんへの卑劣な攻撃を続けている。

当然かつ画期的な判決

 裁判所の結論は「被告(山口元記者)が、酩酊(めいてい)状態にあって意識のない原告(伊藤さん)に対し、原告の合意のないまま本件行為に及んだ事実、及び原告が意識を回復して性行為を拒絶した後も原告の体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる」というもの。

 伊藤さんの訴えどおり、意識がない状態での性暴力だったことを事実認定した。「合意はあった」とする山口元記者の供述ついては、「核心部分について不合理に変遷しており、その信用性には重大な疑念がある」とした。

 また、山口元記者は「伊藤さんに名誉を棄損され、社会的信頼を失った」として、慰謝料1億3千万円などを求めていたが、この反訴は次の理由で退けられた。▽性犯罪の被害者を取り巻く法的・社会的状況の改善につながるとして、伊藤さんは自身の体験を明らかにしたと認められる。▽「公益を図る目的」で表現したと認めるのが相当であり、その内容も「真実であると認められる」ので、公表は名誉棄損にあたらない―。

 自身の被害を明らかにし、性犯罪を告発してきた伊藤さんの活動を、裁判所が「公益目的」と認定したのである。国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士は「被害者は沈黙しなくてよい、『声を上げていい』というメッセージを読み取った」と評価する。

「被害者は笑わない」!?

 伊藤さんの完全勝利の判決を受け、山口元記者はただちに控訴すると表明した。身の潔白を訴えるのは自由だが、彼が記者会見を開いて語った内容は伊藤さんへの誹謗中傷に満ちており、まさにセカンド・レイプとしか言いようがないシロモノだった。

 いわく「伊藤さんは性犯罪被害者ではありません」「本当に性被害にあった方は『伊藤さんが本当のことを言ってない。こういう記者会見の場で笑ったり上を見たり、テレビに出演して、あのような表情をすることは絶対ない』と証言して下さったんです」。そして、伊藤さんが訴え続けることによって「性被害にあった方が『嘘つきだと言われる』といって出られなくなっているのだとすれば、非常に残念なことだと思います」と結んだ。

 女性の人権を踏みにじり、被害者に泣き寝入りを強いる「呪いの言葉」というほかない。この立論に従えば、「本ものの性犯罪被害者は人前に出られない」「性暴力を受けたと告発するような女性は本ものの被害者ではない」ということになるからだ。

 この暴言を歓迎するのは性犯罪の常習者ぐらいであろう。さすがに世間的に許容されるわけがないと信じたい。しかし、安倍政権に連なる歴史修正主義者たちは、日本軍「慰安婦」制度の被害者を嘘つき呼ばわりする際に、同種の罵倒を浴びせている。加害者の発想は同じなのだ。

背景に国家権力の私物化

 山口元記者を擁護し、伊藤さんを攻撃する連中の顔ぶれを見ると、嫌韓ヘイト雑誌の編集長や「性的マイノリティを認めるなら痴漢の権利も保障せよ」発言で批判された自称文芸評論家など、品性下劣な歴史修正主義者のオンパレードだ。彼らは安倍政権の熱烈な支持者でもある。

 山口元記者自身、かつては「安倍晋三首相に最も近いジャーナリスト」と呼ばれていた。菅義偉(すがよしひで)官房長官の口利きで交通関係の広告代理店と顧問契約を結び、多額の顧問料を受け取るなど、政権中枢とべったりの関係にあったことも判明している。

 そもそも、伊藤さんに刑事告発された山口元記者は準強姦容疑で逮捕される寸前だった。ところが、捜査員が逮捕状を携えてスタンバイしている段階で執行停止となった。この指示を出した中村格(いたる)・警視庁刑事部長(現・警察庁長官官房長)は、菅官房長官の秘書官を長らく務め、「官邸の番犬」の異名を持つ。

 安倍首相礼賛本の出版を控えていた「身内」記者を守るために、警察権力を動かし、性犯罪を握りつぶしたとしか考えられない。またしても国家権力の私物化だ。「女性が輝く社会の実現」を掲げる安倍政権が、実は「女性の敵」であり人権クラッシャーであることは、もはや世界の共通認識となった。   (M)

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