2020年01月03・10日 1607号

【未来への責任(289)歴史捏造する『反日種族主義』】

 2002年第16代韓国大統領となった盧武鉉(ノムヒョン)は、韓国社会の民主主義発展のためには過去の国家暴力による人権侵害に対する真相糾明と被害者に対する経済的補償・名誉回復措置がなされなければならないとして、日本の植民地支配や過去の独裁政権下での人権侵害などに対する「過去清算」に取り組んだ。17年5月ロウソク革命で誕生した文在寅(ムンジェイン)政権も過去の独裁・保守政権の数々の「積弊の清算」を四大政策のひとつに掲げた。

 このような国家権力による過去の暴力を徹底追及する民主化の流れに危機感を抱く保守層の「ニューライト」と呼ばれる人たちが巻き返しを図ってきた。彼らは「植民地近代化論」を掲げて日本の「つくる会教科書」と同様、歴史を歪曲し日本の植民地支配を正当化・美化する「高等学校の韓国史教科書」をつくり検定を通過させた。さらには朴槿恵(パククネ)政権下で教科書の国定化を図ろうとしたが、反対運動の前に日の目を見なかった。

 ところが19年7月、ニューライト系列の元ソウル大学教授の李栄薫(イヨンフン)氏が編集した『反日種族主義―日韓危機の根源―』なる本が韓国で発売されるや否やベストセラーとなった。李教授は、大韓民国の初代大統領・李承晩(イスンマン)を賛美する反共主義の象徴「李承晩学堂」校長の肩書きを持つ。そして、日本の植民地支配が韓国を近代化に導いたにもかかわらず韓国民は日本への「敵対感情」に囚われて「反日ナショナリズム」に走る「種族」であると決めつけるものだ。

 かつて、1990年代日本では「自虐史観」を克服すると称して過去の侵略の歴史をねじ曲げる「つくる会歴史教科書」の採択運動が起こったが、韓国でも今、このような植民地支配や歴代の反共・独裁政権の歴史を美化する運動が起こってきている。

 李教授の主張は予断と偏見、嘘に満ち溢れている。例えば18年の大法院判決について「裁判の原告は朝鮮人の舎監のもとで強制貯蓄させられ、…お金を預かった舎監がお金を返さなかった為に起こった民事事件であり、原告たちのうそ(日本のせいにする)の可能性の高い主張を歴史を知らない法律家が国際人道主義を実現するという溢れるばかりの正義感と使命感で下した判決である」などと平気で嘘をつき、判決をこきおろしている。

 また本の中で李宇衍(イウヨン)という落星台(ナクソンデ)経済研究所研究員が、強制労働はなかった、賃金は正当に支払われ民族差別もなかったなどと主張している。その李宇衍は「慰安婦と労務動員労働者像設置に反対する会」「反日民族主義に反対する会」などの連名で「慰安婦像撤去と水曜集会中断を求める声明」を出して日本大使館前で毎週取り組まれている水曜集会への直接妨害行動を行っている人物である。

 これは日本と韓国だけでなく、移民問題などを契機に世界的に進行しているエスノセントリズム(自民族中心主義)、差別排外主義の流れの一環と言える。私たちの未来のためにこのような過去の捏(ねつ)造を許してはならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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