2020年01月03・10日 1607号

【原発事故後に増加した先天性障害 低線量被ばくを考えるセミナー 日本中が受けた放射線被ばくの影響】

 12月14日、大阪市内で「福島原発事故後の複雑心奇形・停留精巣の全国的増加」と題した「低線量被ばくを考えるセミナー」が開催された。今回の講師は、村瀬香さん(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科准教授)で、原発事故後に認められた健康被害に関して重要な報告が行われた。

 村瀬さんは、大規模な災害は先天性奇形などの様々な健康上の問題と関連することが知られているとして、原発事故が野生動物とヒトに与えた影響を研究している。

停留精巣手術の増加

 セミナーでは、準絶滅危惧種であるオオタカの繁殖生態を調査し、福島第一原発事故後のオオタカの繁殖成功率の低下は放射能の空間線量の増加が影響したとする研究結果を報告。0・1マイクロシーベルト上昇で最大10%の繁殖成功率低下につながる試算になると述べた。

 小児の先天性奇形の一つである停留精巣(男児で精巣がお腹の中から陰嚢(いんのう)内に降りてこない病気)がある。この病気は、出産前に診断することができず、原発事故が先天性疾患にどのような影響を与えたかを評価するのに適している。この点に注目した村瀬さんは、泌尿器科英文専門誌の『Urology』に論文報告し、2018年に掲載された。

 そこでは「35県94病院における2010年から2015年度の手術退院件数データを用いて解析を行なったところ、全年齢層における停留精巣の手術件数は、震災後13・5%有意に増加し、調査終了時の2015年度まで 高い水準が維持されていた」としている(図1)。停留精巣の発生に影響を与える低出生体重児や早期産の割合は、調査期間中においてはほぼ一定であり、原発事故の関与が主要な原因として考えられるのである。


先天性心疾患でも

 また、村瀬さんは2019年3月、アメリカ心臓協会の専門誌に、日本全国の病院を対象に先天性心疾患に関する手術データについて2007年から2014年までの手術件数を使用して分析した結果を報告。「乳児に実施された複雑心奇形の手術件数が原発事故後におよそ14・2%有意に増加し、調査終了時の2014年まで高い水準が 維持されている」と結論付けた(図2)。複雑心奇形の手術件数は、その発生率そのものとは異なるものの密接に関連しているため、複雑心奇形の発生率の上昇が考えられる。

 1986年のチェルノブイリ原発事故の後、近隣諸国では先天性心疾患の発生率の増加が報告されていた。しかし、日本では、福島原発事故の影響に関するそうした全国的な調査はまだ行われていない。その意味でもきわめて重要な報告だ。


被ばく影響に確信深める

 放射線被ばくの影響は、野生の動物たちには明確であり、人間にも出ていることが確認される。日本中が放射線被ばくの影響を受けたことが明確になってきているという見方に、参加者が確信を持つことができたセミナーとなった。

 また、すでに医療問題研究会のメンバーらが福島原発事故後の健康障害の影響を研究し、周産期死亡増加を報告している。それらの研究結果とともに、今回の報告は事故後の先天性障害の増加を示す事実として大きな意味を持つと考えられ、広く伝えていくことが必要だ。

 このセミナーは、大阪小児科学会地域医療委員会が主催したもので、これまでも低線量被ばくの健康リスクや原発の安全性を検討する第一線の医学者、科学者、専門家を講師に招いている。すでに5年の歴史があり、13回目となる。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS