2020年01月03・10日 1607号

【行きづまるグローバル資本主義/佐藤和義MDS委員長が語る 追いつめられた安倍政権/軍事費削減、大企業課税で社会保障充実、教育完全無償化/民主主義的社会主義の道へ】

 相次ぐ閣僚辞任、「桜を見る会」問題で安倍政権は限界にきている。なりふり構わずグローバル資本に忠誠を尽くす安倍を退場させる時だ。2019年を振り返り、2020年の闘いの展望をMDS(民主主義的社会主義運動)佐藤和義委員長に聞いた(まとめ・脚注は編集部)


政府を私物化する安倍

 安倍政権は完全に末期症状だ。閣僚の不祥事は擁護しきれず、政策のぼろが次々と出てくる。でたらめの極致だ。

 再改造内閣発足後1か月半で菅原一秀前経産相が辞任。続いて河井克行前法相も辞任し、安倍側近の萩生田光一文科相は大学入試民間英語試験での「身の丈」発言で強い批判を浴びた。そして「桜を見る会」だ。安倍・菅本人の不祥事まで暴かれた。

 最近では和泉洋人首相補佐官の話が出た。和泉は大坪寛子厚労省大臣官房審議官と2人で京都大学iPS細胞研究所を訪ね、山中伸弥教授に補助金を出さないと通告した(※1)。民間企業がiPS細胞を使った再生医療で早く収益を上げたがっているからだ(※2)。困惑する山中教授をしり目に2人は研究所を早々に立ち去り、午後は京都の観光名所巡りのデートを続けたという。この和泉補佐官は、加計問題で文部次官に獣医学部の新設について「首相の意向だ」と伝え、官邸から圧力をかけた中心人物だ。

 支配階級の連中は、政府の公式行事を私物化し、命にかかわる医療をも私物化する。ここにグローバル資本主義の本質が表れている。

 人口のわずか0・1%≠ナしかない富豪が世界の富を奪っている(※3)。私物化どころではない。すべて奪っている。その支配層に従属する安倍と、安倍を支える官邸と官僚が「自分たちは好き勝手にできて当然」と考えるのは新自由主義思想の必然だ。だが、アマゾンのジェフ・ベゾスにしろファーストリテーリングの柳井正にしろ、カネのための「経営」「資産運用」では努力したかもしれないが、富を生み出したのは働いている人たちだ。世界中の富の半分を0・1%≠ナ独占するというばかげたことをやっている。

乱暴さは末期の表れ

 安倍は、メディア支配、官僚支配、選挙支配で、戦前の桂太郎を超える最長政権となった。ここにきて、だんだん荒っぽくなっている。合法性のかけらもないことを平然とやってのける。「シュレッダーの順番待ち」などと恥ずかしい答弁をせざるを得ず、まともに擁護もできない。

 今回、国会を延長せず「桜を見る会」問題から逃れたと思っているようだが、逃げ切れるはずがない。「ホテルの領収書がない」「名簿データは廃棄し、修復できない」など陳腐な言い訳が嘘ばかりであることは誰の目にも明らかだ。NHKでさえ、ニュースの冒頭で「桜を見る会」を取り上げ、選挙区の山口県にまで取材に赴(おもむ)いた。

 政策では、大学英語民間試験は延期し、国語・数学の記述式テスト導入も白紙撤回せざるを得なくなった。介護保険改悪の柱、要介護1、2の介護保険対象からの排除、ケアプラン作成の有料化の案も全部撤回に追い込まれた。イージスアショアは秋田で事実上の撤回。憲法審査会での論議は進展せず、改憲自民党案の議論どころか国民投票法改定もできない。

 安倍第2次政権下では、「安倍一強」宣伝を背景に看板政策はすべて強行されてきた。ところが今、「改元・代替わり」ムード演出でかろうじて維持してきた内閣支持率も急落。できないことが増えてきている。「改憲は私の使命だ」となお強がっているが、求心力を維持するために掲げざるを得ないのが実情だ。「2020年改憲」は不可能。ここで押し込み、改憲を断念させるチャンスだ。

資本救済する民営化

 グローバル資本と富裕層による富の独占は、限界にきている。

 「アベノミクス」で金融緩和や特区創設などの規制緩和をすすめ、その結果、資本の側に富が集中した。けれども、それ以上の儲け口を保障することができなくなり、市場原理にゆだねてはならない公的部門に次々と手を付けた。

 すでに世界各国の導入で破綻が明確になっているにもかかわらず、水道民営化を可能とした。

 大学入試改革は教育の民営化の一環だ。英語民間試験の導入は文字どおり。文部官僚と教育産業が癒着し、民間の受験料稼ぎのために自治体施設、教育公務員を投入する。公立高校を試験会場として提供させ、教員を試験監督として動員しようというのだ。数学・国語の記述式導入も請け負ったのは最大手のベネッセで、落札額は約61億6千万円にのぼった。少子化で市場規模が縮小していく教育産業の利潤確保のために、受験生の人生を差し出そうとしていた。当事者らがノーの声を上げたのは当然だ。

 また「プログラミング教育・ITスキルの獲得」と称して、生徒1人1台のコンピューターを配布するという。総額4000億円をIT資本の儲けにつぎ込む。メンテナンスの費用は自治体が出さなければならない。費用面だけでなく、ただでさえ過酷な労働の教員が指導を強いられる。できるわけがない。そんな金があるのなら、まず教員を増やさなければならない。

 大学の研究者の扱いもひどい。9割がたが非常勤という研究施設まである。「競争型研究費」と言って大学への研究費を削り、防衛省からの交付金を増やして軍事研究に誘導する。左翼でもない歴代ノーベル賞学者らも皆非難しているにもかかわらず、財務官僚が「論文の生産性」などと言って歯牙にもかけない。

 そもそも、基本的人権としての教育や学問・研究の自由といった視点は全くない。彼らが目標に掲げる「人材育成」の観点からすら大きくずれている。資本への目先の利益の提供しか考えていない。

原則譲らぬ共闘築く

 安倍は相変わらず、展望のない基地を作ろうとし、リニア新幹線、東京オリンピック、大阪万博と民衆にとって無駄なことに巨額の支出をし、グローバル資本に儲け口を提供する(※4)。そして、消費増税する一方、大企業・富裕層向け減税を続ける(※5)。莫大な資金は内部留保と金融資産に向かい、投機に費やされ、雇用にはつながらない。グローバル資本とその手先たちにこれ以上やりたい放題を許せば、世界も日本も立ち行かなくなる。だから、変革の展望を示す闘いを作らなければならない。

 グローバル資本を批判し規制する基本的姿勢で、平等の実現を基本に闘う。そこをあいまいにして、新自由主義の枠組みの中でできそうな政策を求めるだけでは話にならない。そうした点では国民民主党など資本の別動隊のようなものだ。立憲民主党もグローバル資本主義に代わる根本的変革を目指しているわけではない。野党共闘は、基本的な原理、民主主義的な原理に基づく共闘に発展させなければならない。当然、原発ゼロをはっきりさせるべきだし、消費税廃止、教育完全無償化を打ち出すべきだ。

 安倍の言う「教育無償化」「保育無償化」「介護職員の待遇改善」は、すべて嘘っぱちだ。

 高等教育の無償化はごく一部の低所得世帯だけ。保育無償化といっても給食費負担は残るし、保育の質は担保されない。介護職員の待遇改善に至っては全くのウソだ。財源は介護職員総数分の1割以下。「重点配分」と称して経験・技能によって差別化される。介護保険請求の「加算」であるため、利用者負担増と介護保険料に転嫁される。ダイレクトに国費で月収10万円増にするしかない。

 災害対策にしても、いつまでたっても仮設住宅暮らし。避難所は国際水準をはるかに下回り、「平和な経済大国」とされている日本で、戦争難民の処遇にも及ばない生活を強いられる。インフラ、ハコモノのを作って「復興だ」というが、被災者の生活再建に直接資金を出すことはない。最たるものが福島原発事故被害者だ。生活再建支援どころか、国家公務員宿舎からの追い出しや「違約金」と称して倍の家賃を請求する。無理やり福島に戻らせて「復興」したかのように見せかけようとしている。大間違いだ。

 このままでいけば、東京だけしか街は成り立たなくなる。

政策で地域に展望示す

 グローバル資本の利潤を確保する手段が尽き、国民生活破壊をぎりぎりまで進めないと保証できなくなった結果が政治の腐敗として表れている。彼らの限界が来ている。

 MDSは今、米国のDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)の取り組みに学び、全国で戸別訪問を通じて地域から社会を変革していく取り組みを強めている。

 地域の人たちの困窮、怒りの対象は様々だ。だが、底流には、アベ政治に対する批判、グローバル資本に対する批判がある。

 MDSの役割は、地域の人たちに具体的な政策を提起し、大きな変革の展望を示すことだ。平等、基本的人権の擁護を掲げ、憲法の内実を実現することで改憲阻止の大きな力とする。グローバル資本が際限ない膨張を続け、民衆から収奪しつくした末に自壊に向かう今、民主主義的社会主義によって根本的に対抗していくことが必要となっている。

 被介護者の人権を最大限に保護する介護、すべての人びとが生活できることを保障する年金制度、「貧困対策」ではなく子どもたちの教育権保障としての教育完全無償化など、政策のすべては平等と基本的人権の保障に貫かれなければならない。

 そのための財源は、グローバル資本から奪い返す。

 イージスアショアをやめれば数千億円を生み出せる。1機百数十億円もするF35戦闘機など不要だ(※6)。市民生活とかけ離れた軍事費や大規模開発に数兆円も使う安倍政権は異常だ。不要な予算カットにとどまらず、大企業への優遇税制を減らすだけでもかなりの財源を確保できる。

 軍事費削減と平和構築は表裏一体だ。

 アジアでは、朝鮮半島非核化・東アジアの平和構築を巡って膠着(こうちゃく)状態になっている。韓国・文在寅(ムンジェイン)政権は、日本のかつての民主党政権によく似て、民衆から支持されて当選したのにその民衆に大軍拡を押しつけ、サード(高高度ミサイル迎撃システム)配備、基地建設などを強行しようとしている。

 権力の側が自ら積極的に平和構築を進めていくことはありえない。民衆の側が迫り、作り出していくしかない。沖縄でも同じことだ。だから、韓国・沖縄民衆と連帯し、各地のスピーキングツアーなどで闘いを広げ構築していく。

世界に広がる反撃

 グローバル資本主義のでたらめが限界に達していることは、世界中で明確になっており、民衆の側では反撃の機運が高まっている。

 米大統領選挙の候補者選びで、グローバル資本に対する規制強化の政策がかなりの支持を集めている。すべての人びとへの公的保険制度をめざす「メディケア・フォー・オール」、奨学金債務の帳消しを金融取引税や富裕層増税で実現するという政策だ。

 欧州でも金融取引税が真剣に議論され、英国総選挙でコービン労働党は金融取引税や富裕層課税を財源として国営無料医療NHS(国民保健サービス)民営化反対、再建を掲げた。EU離脱の焦点化で敗北したが、国際連帯によるEU全体の根本的民主的変革を徹底して訴えるべきだった。

 グローバル資本・富裕層から富を取り返し基本的人権を擁護するという政策は、民衆の側に浸透し始めている。

 これが基本的な流れだ。

 グローバル資本の戦争政策遂行への軍事費を削り、大企業・富裕層優遇税制と大規模開発を止めさせ、平和、平等、基本的人権保障を実現する。そのために、民主主義的社会主義の展望を掲げ、地域から国際連帯を構築していく。

※1 補助対象事業は、短時間・低コストで移植用の細胞を得るためiPS細胞を備蓄する「iPS細胞ストックプロジェクト」。現在ストックが進んでいるiPS細胞は4種類。山中教授は商用化には慎重で、拒絶反応を避けるため6種類を加えようと研究を進めている。一刻も早い商用化を進めたい医療ベンチャーと安倍が研究資金を断ち、民間企業へと研究を引き渡させようともくろんだ。

※2 経産省の試算によると再生医療の市場規模は国内だけでも2030年に1兆円、50年には2・5兆円に達する。山中教授のノーベル賞受賞後、安倍政権は再生医療を成長戦略と位置づけ、従来より極端に少ない治験で認可できるようにした。この規制緩和は世界的な科学雑誌『ネイチャー』でも批判されているが、製薬資本は好機ととらえ、ベンチャー企業だけでなく、大日本住友製薬やロート製薬などの大手も本腰を入れ始めている。

※3 世界の富豪上位26人が独占する資産は1兆3700億ドル(約150兆円)。これは貧困層38億人(世界人口の半分)が持つ資産と同額だ。また、1年間で新たに生み出された資産のうちの82%を富裕層の上位1%が独占している。その上、ブラジルや英国など一部の西側諸国では、最も貧しい10%より最も富裕な10%の方が所得税率は低い。もし、富裕層上位1%に0・5%増税すれば、教育を受けられない子ども2億6000万人に教育を与え、医療を受けられない子ども330万人に医療を提供し命を救える(19年1月22日・オックスファム・インターナショナル報告書)。

 2019年のフォーブス長者番付上位10人の資産合計は7438億ドルに上る(約81兆円)。日本の1位はファーストリテイリングの柳井正(世界41位・222億ドル・約2兆4000億円)、2位はソフトバンクの孫正義(世界43位・216億ドル・約2兆3000億円)、3位はキーエンスの滝崎武光(世界69位・163億ドル・約1兆7000億円)。



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