処理の見込みない猛毒のPCB
五月十三日、PCB(ポリ塩化ビフェニール)を含む米軍廃棄物百トン余りが、横浜港の米軍専用桟橋から南太平洋の米領ウエーキ島に向けて運び出されました。三月に船積みされたものの、カナダや米国での処理を拒否され、太平洋を往復して横浜に舞い戻り、一時保管されていたもの。ウエーキ島には処理場は無いので、再び期限なしの一時保管となりかねません。
PCBは、変圧器の絶縁などに使われた油状の物質で、ごく微量で人体に強い傷害を引き起こす猛毒です。一九六八年、食品に混入し死者百四十九人、被害者一万四千人もの中毒事故(カネミ油症事件)が発生。現在では含有量が〇・〇〇三PPM未満でも廃棄が義務づけられています。
九九年三月の米軍の議会報告では、PCBを含む米軍の廃棄物は日本国内に二百五十トン余りとのこと。今回運び出されたのは約百トンですから、まだ百五十トンも残っている勘定です。
環境破壊を容認する地位協定
今回のPCB問題は、米軍基地での環境汚染の氷山の一角に過ぎません。最近でも、横須賀港の米軍桟橋で鉛や砒素などの重金属が海底汚泥に大量に蓄積していた事件がありました。返還された沖縄・恩納通信所ではPCB・カドミウム・水銀・砒素の高濃度の土壌汚染(九六年)、キャンプ瑞慶覧の排水溝からは三四PPM、基準の一万倍以上の汚泥(九七年)、嘉手納基地では七七〜八年まで、なんと穴を掘って超高濃度PCB(変圧器の廃油)を捨てていた事実まで明らかになっています。
復帰後の沖縄に限っても、著しい爆音被害や上陸演習による珊瑚礁破壊、土壌汚染のほか、有毒物や油、汚水の流出が七十件以上、演習による原野火災百件以上(県の調査による・1 / 1沖縄タイムス)という状況なのです。
日米安保条約の地位協定では、環境汚染について日本側に米軍基地内の立ち入り調査権はありません。汚染原因や対策も米軍の一方的発表だけで、検証することも出来ません。地位協定の改正、周辺住民を含む立ち入り調査を認めさせることは急務です。
とはいえ、このような無責任な対応は、日本政府も米軍と同質といえます。
中国に放置された旧日本軍の化学兵器・ガス弾は、致死性のイペリットをはじめ、約二万発。腐食して現地住民に被害がでていたにもかかわらず、日本政府はその処理を放置してきました。やっと昨年、処理に先立つ調査を開始するというありさま。
人体や生活を無視する軍隊
一連の環境汚染・破壊は、軍隊の非人間的な本質に起因するものです。
軍隊の論理は、どれだけ効率的に相手を破壊するかという軍事的合理性がすべてに優先します。その行為が生身の人間や周囲の生活環境に与える影響などを考えていては、戦争に勝てないと言うわけです。軍隊は、環境を汚染しようが、自軍の兵士を殺人機械に仕立てようが、戦闘に勝つことを追求します。
戦争や軍隊・軍事基地こそ、最大の環境破壊・人権侵害を引き起こす元凶なのです。
井上 三佐夫(平和と生活をむすぶ会)