2001年07月06日発行696号

【「つくる会」教科書採択阻止へ山場 共通の歴史認識のために共同行動を 日本キリスト教協議会総幹事 大津健一さんに聞く アジアの批判は日本のあり方に】

 来年度の教科書の採択時期が迫っている。戦争賛美の「新しい歴史教科書をつくる会」教科書を使わせない闘いは、いよいよ正念場だ。文部科学省を包囲する人間の鎖やアジア連帯緊急集会など、共同行動の実現に尽力してきた日本キリスト教協議会総幹事・大津健一さんに聞いた。(文責は編集部)

大津健一さん
写真:大津健一さん

採択阻止の責任がある

◆この間の共同行動の意義をどうお考えですか。

 きっかけは、韓国の国会議員でキリスト者でもある金泳鎭(キム・ヨンジン)さんが国会前で座り込みをされたことです。その後、韓国の元「慰安婦」や挺身隊問題対策協議会の人々も同じように座り込まれた。韓国の人たちが日本に来て抗議の行動をしているのに、日本のわれわれはいったい何をしているのかと大きなチャレンジを受けました。

 「つくる会」教科書は基本的なところで歴史歪曲、戦争美化が行なわれ、ジェンダーの視点が欠落しています。「慰安婦」問題は無視され、南京虐殺は正しく記述されていません。戦争加害者の視点は全くありません。過去の歴史を歪曲する教科書へのアジアの人たちの批判は、日本の今のあり方をも批判しているのだと思います。このままでは日本のあなたたちとは一緒に生きていけないというメッセージではないでしょうか。

 アジアの人たちと一緒に声を上げていくことには、二つの意味があると思います。

 一つは、共通の歴史認識に立つために共同の行動をするということです。アジアの人たちには侵略を受けた側としての歴史理解が当然あります。日本の側には、過去の出来事を歪めず事実を真摯に見ていく責任がある。アジアの人たちが厳しく問いかけているのは、日本の次の世代に誤った歴史を教えていいのかということでしょう。正しい歴史認識なしに相互の信頼関係は生まれません。

 もう一つは、われわれ運動の側の弱さです。かつての社会党のような歯止めが、今はなくなっている。そういう点では国境を超えた市民と市民との連帯活動が必要とされています。アジアの人たちと共同の場を持ちながら国内の運動でもエールを交わし合い、お互いに歯止めの役割を果たしていく。そういう意義があると思います。

軍国主義者の小泉

◆日本の今のあり方、とはどういうことでしょうか。

 小泉政権は有事法制・集団的自衛権を打ち出し、靖国公式参拝をはっきり言い、首相公選制を布石に憲法を変えようとしています。一つ一つの点を結ぶと、戦争のできる国にしていこうという大きな線になる。日本全体のこうした流れの中に、今日の教科書問題を位置付ける必要があります。

文部科学省前での人間の鎖(6月11日・東京)
写真:文部科学省前での人間の鎖(6月11日・東京)

 「つくる会」の公民教科書は、「国のため」「公(おおやけ)のため」を強調する考え方に貫かれています。この教科書を使って「国のために命を投げ出せ」と教えられるおそれも大いにある。戦争のできる国家を支える人材を積極的に育てていこうとしています。

 靖国参拝はこの延長線上にある。小泉首相は「国に命を捧げた人に敬意と感謝の意を表すのは当然ではないか」と日本人の心情に訴えています。海外からは「戦争犯罪人を美化するもの」という厳しい批判があります。香港の新聞などは「小泉は軍国主義者」と書いている。ただ、日本の世論調査では靖国参拝を支持する人が増えているようです。これまでなかった危険な状況だと思います。

要請の短期集中を

◆今後の運動の方向は。

 「つくる会」はまずいくつかの私立や公立の中学校をターゲットにし、採択を拡げていく方針のようです。かれらは各自治体で決議を上げ、慰安婦記述削除の要請を繰り返すなど何年もかけて着々と準備を重ねてきました。一部のはね上がり右翼という見方では片付けられない裾野の広がりを感じます。

韓国からの訴えを聞く人々(6月24日・大阪)
写真:韓国からの訴えを聞く人々(6月24日・大阪)

 これに対し、公立中学校で採択させない運動を各地で強めることが大切です。海外からは、日本製品ボイコットというアイデアもあります。共通の歴史認識を育てる努力を含め、裾野を広げた交流も必要になるでしょう。

 ただ、各地の教育委員会は七月の初めごろに教科書採択を決定するようですから、今が一番の山場です。時間はありません。教育委員会への要請行動など、短期集中型でやっていかなくてはいけないと思います。

◆ありがとうございました。

      (六月二十日)

ホームページに戻る
Copyright FLAG of UNITY