米英軍のアフガニスタン空爆、報復戦争開始から一か月。アフガン民衆の犠牲者は千五百名を超え、難民「約百万人が餓死の危機に直面」(国連食糧計画)している。しかし、ラムズフェルド米国防長官は、軍事攻撃の終了は「タリバン政権とアルカイダの消滅が条件」(10/19) と反米勢力一掃まで攻撃を継続すると宣言。米ブッシュ・英ブレア政権がここまで執拗にアフガニスタン侵攻を続ける隠された狙いは何か。
執拗なアフガン攻撃はなぜ
今回の報復戦争の隠された狙いは、米英石油メジャーによるカスピ海沿岸地域での膨大な石油・天然ガス資源の利権獲得である。
カスピ海沿岸地域は「第二のペルシャ湾」とも呼ばれる。ソ連崩壊後に海底で百四十五の新油田が発見されるなど「地球上で最後の未開発油田・天然ガス地帯」である。その石油埋蔵量は、全世界の確認埋蔵量約一兆バレルの約二割に当たる二千億バレルと推定されており、これは世界最大のサウジアラビアにも匹敵する。天然ガス資源もトルクメニスタンを中心に百二兆立方フィートとロシア・イランに次ぎ世界最大級だ。世界の石油企業は、ソ連崩壊直後からこの未開発の膨大な石油・天然ガス資源に注目し、「今世紀最後の石油争奪戦」と言われる激しい競争を繰り広げてきた。
それは同地域から欧州やアジア市場へと石油・天然ガスを輸出するパイプラインの建設をめぐる各国の間の競争として展開されてきた。従来のロシア経由のパイプラインに対して、米英メジャーは新しいパイプラインを建設しロシアを経由しない独自の輸送ルートを確保することで、同地域での権益を手に入れようとしたのである。
パイプラインの最有力ルート
そして、その代表的なプロジェクトの一つが、トルクメニスタンからアフガニスタンを経由してパキスタンにいたる全長千六百八十キロのガス・パイプラインを建設しようとする「ユノカル・プロジェクト」であった。中央アジアからインド洋に南下するパイプラインの建設は、石油企業にとっては最短距離で石油・天然ガスを大消費市場アジアに輸送できる極めて魅力的な計画だ。そして、イラン経由のルートが米国による経済制裁措置によって閉ざされている現在、アフガニスタンこそが輸送ルートとしてもっとも有望とされた。
一九九〇年代半ばに米石油企業ユノカル社が計画した同プロジェクトには、サウジアラビアや日本などの石油企業・商社も加わり(九七年国際共同企業セントガス社設立)米国政府も国をあげて全面的に支援した。
アフガニスタンは八九年のソ連軍撤退後、内戦に突入。九四年にパキスタン軍情報部とサウジアラビアに軍事的・資金的に支援されたタリバンが登場し、九六年には首都制圧、九八年夏には全国土の九割を支配下に置く。
タリバンを支援した米国
九五年米クリントン政権は反イランのタリバンの登場を歓迎し、タリバン支援用に二千万ドルの秘密予算をCIAのために計上。米国務省の報道官は「(タリバンの首都制圧について)反対すべきことは何もない」と発言し、ユノカル社はタリバンとのパイプライン建設交渉を積極的に推進した。
当時、国連の人道担当事務次長であった明石康も「アフガニスタンに対する外部からの干渉は、すべて石油やガス・パイプラインをめぐる闘いと関連し…これらの石油会社や地域大国が自分たちの目的のために、タリバンに貢いでいる」と批判していた。つまり米国政府や石油企業は、利権獲得のために女性に対する人権抑圧や他民族虐殺などに目をつぶってタリバンを支援したのだ。九七年三月、タリバン政権はパイプライン計画を承認した。
しかし、九八年八月、ケニア・タンザニア米大使館爆破テロへの報復として米軍がウサマ・ビンラディンのアフガニスタン訓練キャンプへミサイル攻撃を加えたことで、「ユノカル・プロジェクト」はいったん挫折した。
親米政権の樹立こそが狙い
「カスピ海の石油埋蔵量は…今日の価格で五兆ドル(六百兆円)の価値がある。…われわれが提案しているパイプライン建設の開始は、政府と資金の貸し手、そしてわが社の信頼を得ている承認された政府が登場するまで不可能だ」(ユノカル社副社長J・マレスカ、九八年二月米下院国際関係委員会での証言)。米石油企業は石油利権獲得のためにアフガンでの親米政権樹立の必要性を露骨に公言していた。
”爆撃やめろ”のデモに沿道からも拍手(10月27日・ニューヨーク)
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二〇〇〇年七月にカザフスタン沖で世界最大規模のカシャガン油田が発見されるなどカスピ海沿岸地域はますますその重要性を高め、周辺各国・石油企業間の競争もますます激しくなっている。アメリカ石油産業の利益代表であるブッシュ政権にとって、この国際的な利権争奪戦に勝ち残ることは至上命令なのだ。
急減する米国の産油量
また米国内の産油量はここ十五年間で三分の二に急減し、石油輸入依存度は五一・六%(二〇〇〇年)から二〇二〇年には六四%に上昇すると予測されている。米国政府は、同地域を「米国のエネルギー安全保障上不可欠な地域」と位置づけており、早急にアフガニスタン・ルートを完成させなければ中央アジアでの石油利権を失い、OPEC(石油輸出国機構)に原油価格決定権を握られるかもしれないと危惧しているのだ。
ブレア政権も、国際共同企業を通じて英メジャーBPアモコが食い込んでいるアゼルバイジャンやカザフスタン沖油田の利権を確保することに必死だ。
小泉政権も「日本の国益からもアフガン復興にかかわるべきだ」(10/7読売)と、復興会議の日本開催を提案するなど、「タリバン政権崩壊後のシナリオ作り」で発言力を確保し、食い込むことを狙っている。
百万人の難民が餓死しようともアフガニスタンから敵対勢力を一掃し、自分たちに都合のいい政権を樹立するまで戦争を継続しようとするグローバル資本主義勢力を許してはならない。