根拠のない追跡・発砲
十二月二十二日に引き起こされた海上保安庁(海保)巡視船による「不審船」撃沈事件は、その始まりから最後まで、国内法にも国際法にも反する違法行為のオンパレードだ。
日中中間線の西は中国の排他的経済水域(朝日新聞・12月24日付)
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海保の報道発表を基に経過を追って見てみよう。
巡視船は、日本の領海(沿岸十二カイリ=二十二キロ)からはるかに離れた排他的経済水域(EEZ、沿岸二百カイリ=三百七十キロ)で「不審船」を発見し、停船命令を発した。だが、これ自体が権限外の行為だ。海保は、領海内であれば警察権を行使し船舶の取締りを行うことができるが、EEZ内では漁業や鉱物資源の探査などの経済活動を規制する権限しかもたない。「不審船」は密漁をしていたわけでもなく、中国領の方向に無害航行していたにすぎない。
領海外では、密輸など船舶による犯罪行為を取り締まれるのは該当する船の帰属する国だけだ。停船命令は何の根拠もなく出され、「不審船」が停船しなかったことをもって漁業法違反「立ち入り検査忌避」の嫌疑をはじめてかけ、追跡を開始した。海保は漁船の外観だが漁網などの漁具を積んでいないことから漁船ではなく「不審船」と断定したとしているが、それは漁業法を根拠とする立ち入り調査の必要性がないことを示している。つまり、追跡自体に一切正当性などないのである。
巡視船は空中・水中に向け威嚇射撃を一回行ったあと、「不審船」の船尾と船首を狙った二十ミリ機関砲による船体射撃を加えた。
政府は、この船体射撃の根拠として「警察官職務執行法第七条の準用」をあげ、「人に危害を与えないことを前提に、容疑者の逃走防止のため」のものとしている。
しかし、「不審船」は巡視船よりも速度が遅く、追跡を振り切る能力はなかった。速度のより早い四隻の巡視船が航路妨害などの手段を尽くせば、だ捕も可能だった。しかも、検査忌避という漁業法違反の罰則が「六か月以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金」という軽微なものであるにもかかわらず、人命に影響を与える船上火災を引き起こすほどの船体射撃を行った。何の必要性もなく、警職法の制限を逸脱するものだ。
この攻撃は、公海上を無害航行する自由を奪うものであり、日本も批准している国連海洋法条約に違反する行為である。
反撃するまで発砲継続
船体射撃の目的は、「不審船」を挑発し、相手側からの反撃を引き出すことにあった。
「不審船」沈没の引き金になった四回目の船体射撃は、「不審船」からの発砲に対する「正当防衛」としている。
だが「不審船」を追跡して一方的に船体射撃を繰り返し、銃撃戦が予測される状況を作りだしたのは巡視船側だ。
停船命令が拒否されるとすぐさま海上保安庁長官が船体射撃許可を出した事実は、追跡の目的がだ捕・洩航などではなく、ただ武力行使にあったことを示している。
巡視船は五百八十九発の二十ミリ機関砲射撃を行い、「不審船」を撃沈した。夜間の荒海の中を漂流する十五名の乗組員に対し、サーチライトも点灯せず救命ボートひとつ降ろさずに数時間放置し、見殺しにした。
日本は戦後初めて自らの軍事力で人命を奪ったのだ。
警戒心深める韓国・中国
韓国や中国は、日本政府のいうような「正当防衛」事件とは見ていない。
朝鮮日報紙は「日本の巡視船が先に攻撃し、日本の正当防衛とは見えない」「日本は軍事力行使の足かせになってきた要素の取り除き作業を始めている」と警告した。中国人民解放軍機関紙「解放軍報」は「不審船『追撃・撃沈』の法的根拠が十分ではない。日本が先に武力を行使し、専守防衛の戦略方針に背いた」と日本の正当防衛を否定した。
日本政府は、こうした批判を無視して、事件を口実に海保巡視船の重武装化や自衛隊艦艇との共同作戦を狙う「領域警備法」制定を持ち出してきている。海保の次には自衛隊の先制攻撃を狙い、通常国会に向け有事立法制定の策動を本格化しようとしている。「不審船」事件は、戦争国家への道を急ぐためのステップにされたのである。