2002年01月18日発行722号

【インタビュー 韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会 金銀植キムウンシク事務局長 侵略の歴史を繰り返さぬ共同を】

写真:顔写真

 二〇〇二年を迎え、小泉内閣の戦争政策をつきくずす日韓市民の国際連帯がますます求められている。日本の軍事力行使反対や戦後補償実現に向けた課題について、韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会の金銀植(キム・ウンシク)事務局長に聞いた。

軍事力行使に危機感

◆報復戦争への参戦や「不審船」事件など、現在の日本の動きをどう見ていますか。

 テロ事件を通じて日本が軍事力で世界に影響力を広げようとしていること、そのために新しい法律を作り、さらに改憲の動きまで出ていることを大変心配しています。

 日本は天皇制の下で軍事大国化を進め、アジアに戦争を広げていった経験があります。新しい法律は自衛隊の派遣を合法化したもので、大変あぶない措置だと思います。

 韓国のマスコミは、日本はすでに軍事大国化していると報道しています。ある政治学者は、韓国には一機もないAWACS(空中警戒管制機)を四機も持っていることなどを例に、日本の軍事力は世界的なレベルに高まっていると指摘しています。

 私はもちろんテロに反対ですが、軍事力で他国を攻撃して弱い国を犠牲にするのにも反対です。国際的な世論の協力でテロ勢力を孤立化させることが必要です。

 「不審船」事件もあぶない事件です。日本の憲法九条は交戦権を認めていません。国籍も目的もわからない船を、攻撃して沈めました。しかも公海上で、です。韓国の領海にも国籍不明船が入ってくることがありますが、捕獲し、その目的を調査して法律で罰するというのが基本的な見地です。

 韓国と北朝鮮との間では軍事力の差が広がっています。だから米国のこれ以上の軍事的な支援は必要ない、基地も削減せよという世論が韓国では広がっています。日本の立場はこれと逆のものです。韓国人遺族の一人は「北朝鮮に対して何かの意図があるとしか思えない」と話していました。

靖国参拝は許せない

◆在韓軍人軍属裁判や靖国参拝違憲訴訟の意義は。

 軍人軍属裁判は、日本の植民地支配の被害の一つ一つを具体的に明らかにするために始めました。公式記録では、三十六万人を軍人軍属として連れて行き、うち死亡や行方不明者数は一四%の五万人以上となっています。ところが死亡者名簿には二万千九百十九名分しか載っていません。それ以外の人たちはどこへ連れて行かれてどうなったのか。例えばニューギニアには三千人が行って生き残ったのは二百人だという証言がありますが、それ以外の消息はわかりません。日本兵についてはいろいろな手記が残されていますが、韓国人による記録はない。また、遺骨はどう処理されてどこにあるのか、供託金はどうなっているのか。こうしたことを総合的・具体的に究明していく必要があります。

 小泉首相は八月、靖国神社に公式参拝しました。太平洋戦争は平和のための戦争だったという歴史認識を持ち、戦犯を受難者として扱っているのが靖国神社です。これに公式参拝するという行動は許せるものではありません。

 日本は植民地時代、韓国全土に神社を作って参拝を強要しました。拒否したら投獄、拷問で命を奪われたのです。このような精神的文化的侵略の歴史を無視して、侵略戦争を先頭で宣伝した国家神道施設に公式参拝したのですから、韓国では反対世論が高まっています。小泉首相らは戦没者を追悼することの何が問題なのか、と言っていますが、私たちは事実について日本の国民に詳しく説明する必要があると考えて、靖国参拝違憲訴訟を起こしました。

 日本の憲法では政教分離が原則です。日本政府は、靖国神社は宗教法人だから国が合祀の取り下げをすることはできないと言う一方、公式参拝で靖国を特別な地位に引き上げようとしている。これはおかしい。私たちはこうしたことの一つ一つを取り上げて、アピールしたいと考えています。

 提訴に対して、小泉首相は「おかしい人がいる」と発言しました。当然の指摘に対する暴言です。「おかしい」のは日本の戦争責任をあいまいにする日本の総理大臣の歴史認識です。この点をさらに強くアピールしようと名誉棄損訴訟も開始しました。

過去の罪を明らかに

◆日本の運動に期待することは。

 「つくる会」教科書の採択を〇・〇四%しか許さなかったのは日本の市民運動の勝利です。ただ、他の教科書も戦争責任に関する記述を減らしているのは問題です。日本の右翼は事実を正しく認定しないところから動きを強めています。事実を究明し、教科書に書くべきことをはっきりさせ、正しく次世代に伝えていかなくてはなりません。過去の罪を繰り返さないような教育が重要なのです。

 軍人軍属裁判をきっかけに、日本の研究者や市民も韓国側と共同で戦争被害の調査活動を進めてほしいと思います。戦争で何が起こったのかだけではなく、どうしてそれが起こったのかのプロセスを具体的に明らかにすることが大事です。さまざまな戦争被害者のそれぞれにどのような補償が必要なのか、それはなぜ今まで実現されなかったのか、今私たちができることは何なのか。これを明らかにすることが戦争を再び起こさない力になると確信しています。

◆ありがとうございました。

    (十二月二十六日)

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